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実質的支配者リスト制度
令和4年1月31日より,法務省の制度として「実質的支配者リスト制度」の運用が開始されました。
以下,この制度の概要をご紹介します。
近年,組織犯罪やテロ活動等の脅威が増す中,国際社会は協調して,それらの防止・撲滅に取り組む必要があることは異論のないところでありますが,その一環として,大手金融機関においては,マネーロンダリングやテロ資金供与を防止するための管理体制を強化するべく,融資先企業等に対し,当該金融機関との取引の目的や経済制裁対象国に関連する取引の有無,その企業の実質的支配者等を確認するようになっています。
この確認作業の多くは書面の提出又はWeb入力を融資先企業等に依頼するといった方法で行われておりますが,その確認事項の一つである企業の「実質的支配者」の部分について,確認作業に国として関与する必要性が増してきたため法務省が制度を用意しました。
それが「実質的支配者リスト制度」です。
これまで我が国には株式会社の実質的支配者に関する商業登記制度がなく,犯罪収益移転防止法における株式会社の実質的支配者の確認は各金融機関にゆだねられてきました。
しかし,こうした姿勢が,FATF(Financial Action Task Forces:金融活動作業部会)から厳しい評価を受けたことも背景にあります。
<本制度の概要>
本制度は,株式会社(特例有限会社を含む)からの申出により,商業登記所の登記官が,当該株式会社が作成した実質的支配者リストについて,所定の添付書面により内容を確認し,その保管及び登記官の認証文付きの写しの交付を行うものです。
具体的には次のような流れになります。
①株式会社の代表者又は代理人が,実質的支配者リストを作成する。
②上記リスト,申出書,添付書面(実質的支配者リストの内容を証する書面)を法務局に提出する。
③法務局の登記官が申出内容を確認し,問題が無ければ実質的支配者リストを保管し,認証文付きの実質的支配者リストの写しを交付する。
④交付を受けた実質的支配者リストを金融機関等へ提出する。
本制度の対象となる実質的支配者とは,犯収法施行規則第11条第2項第1号の自然人(同条第4項の規定により自然人とみなされるものを含む)に該当する者をいい,具体的には,次の①又は②のいずれかに該当する者です。
①会社の議決権の総数の50%を超える議決権を直接又は間接に有する自然人(この者が当該会社の事業経営を実質的に支配する意思又は能力がないことが明らかな場合を除く。)
②上記①に該当する者がいない場合は,会社の議決権の総数の25%を超える議決権を直接又は間接に有する自然人(この者が当該会社の事業経営を実質的に支配する意思又は能力がないことが明らかな場合を除く。)
上記①及び②に該当する者がいない場合における実質的支配者は「出資,融資,取引その他の関係を通じて事業活動に支配的な影響を有する自然人」となりますが,この場合における実質的支配者は本制度の対象外です。
本制度の運用はまだ始まったばかりであり,制度の利用は任意でもあるため,現時点では広く認知されているとは言い難いですが,今後は新たな銀行口座開設の際や融資の際に,本制度による実質的支配者リストの写しの提出を求められていくものと思われます。
また,制度趣旨としてはあくまでもマネーロンダリングやテロ資金供与の防止にありますが,個人所得税や相続税の現場における名義預金や名義株の判定にも利用され得るため,法人のみならず個人の税務リスクも意識して本制度を利用する必要があると思われます。
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相続土地の登記義務化について
被相続人が所有していた土地を相続した場合,一般的には相当の期間内に相続登記がなされますが,相続登記の申請は義務ではなく申請しなくても不利益を被ることは少ないことや,人口減少・高齢化等により地方を中心に土地所有意識の希薄化及び土地を利用したいというニーズの低下等の理由から,相続登記がなされないまま放置されることがあります。
このような相続登記がなされないまま放置された土地で,不動産登記簿により所有者が直ちに判明しない土地や,所有者が判明してもその所在が不明で連絡が付かない土地は「所有者不明土地」と定義されますが,遺産分割がされないまま相続が繰り返されますと,土地の共有者がねずみ算式に増加することとなり,土地所有者を特定することが更に難しくなっていきます。
この所有者不明土地が増加しますと,共有者が多数だったり一部が所在不明だったりということを原因として共有者間での合意形成が困難となり,公共事業や復旧復興事業が円滑に進まず,土地活用の弊害となります。
また,所有者不明土地は管理がなされず放置されることが多く,隣接する土地へも悪影響を及ぼします。
ちなみに,所有者不明土地問題研究会(一般財団法人国土計画協会)が2017年12月に発表した最終報告では,2016年時点における全国の所有者不明土地面積は約410万haで,九州本島の土地面積約367万haを超えているそうです。
この所有者不明土地問題は,高齢化の進展による死亡者数の増加等により,今後更に深刻化し,現在の所有者不明土地の探索が行われないとすると,2040年には北海道本島の土地面積に迫る水準である約720万haにまで増加すると同研究会は予測しています。
そこで,この所有者不明土地問題の解消に向けて法が整備され,
①相続登記義務化などを盛り込んだ民法・不動産登記法等の改正,
②相続などにより取得した土地を手放すための制度に関する法律「相続土地国庫帰属法」
が,2021年(令和3年)4月に成立しました。
<相続登記申請の義務化>
相続又は遺贈により不動産の所有権を取得した相続人は,自己のために相続開始があったことを知り,かつ,不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内に,
①相続を原因とする所有権移転登記申請(遺言または遺産分割協議に基づく場合または法定相続分の割合による場合)
②遺贈を原因とする所有権移転登記申請
③相続人申告登記の申し出
のいずれかの相続登記の申請等をすることが義務付けられました。
2024年(令和6年)4月1日から施行開始です。
正当な理由無く上記申請義務に違反した場合は,10万円以下の過料が科されます。
上記③の「相続人申告登記」とは新たに制定された制度で,期日までに遺産分割協議が成立しないといった理由から相続登記ができない場合であっても,登記官に対し,自らが登記名義人の相続人である旨を申し出ることにより,相続を原因とする所有権移転登記の申請義務が履行されたものと見なされます。
また,所有権の登記名義人は,住所等の変更日から2年以内に当該変更登記を申請することも義務付けられました。
正当な理由無く申請義務を怠った場合は,5万円以下の過料が科されます。こちらの施行日はまだ決まっていません。
<相続土地国庫帰属制度>
相続又は遺贈(相続人に対する遺贈に限る)により取得した土地の所有権を手放して,国庫に帰属させることを可能とする制度が創設されました。
大まかな手続きの流れは,
①承認申請
②法務局による要件審査・承認
③申請者による負担金の納付
④国庫帰属
となります。
対象となる土地は相続又は遺贈により取得した土地に限られ,売買等で自ら購入した土地は対象外です。
申請できる土地には要件があり,土地上に建物が存したり,担保権が設定されていたり,境界が未確定である土地等は申請しても却下されます。
申請者は審査手数料と10年分の土地管理費相当額の負担金を納付する必要があります。
所有者不明土地を解消する目的とはいえ,それなりに厳格な要件を充足しなければならないため,本制度を利用して土地を手放すのは簡単ではなさそうです。
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不動産譲渡における取得費が不明な場合の実務的対応
個人が不動産を譲渡した場合における譲渡所得の金額は,収入金額から取得費及び譲渡費用を控除して求めますが,譲渡した不動産が先祖伝来のものであったり,購入時期が古すぎて資料が残っていなかったりといった理由から,取得費が不明であることは間々あります。
このように取得費が不明な場合には,譲渡した金額の5%相当額(概算取得費5%)を取得費とすることができます。
また,実際の取得費が概算取得費5%を下回る場合も同様です。
しかしながら,亡くなった両親から相続した不動産等で,資料は残っていないが常識的に考えて実際の取得費の方が概算取得費5%よりもはるかに金額が大きいといった場合にまで,取得費を概算取得費5%としてしまうと,多額の税金が発生してしまうおそれがあり,このような場合には他の実務的な対応を検討すべきです。
具体的には,建物については国土交通省が公表している建築着工統計の数値が参考になります。
国税庁が公表している「令和3年分 譲渡所得の申告のしかた」という冊子においても,「建物の標準的な建築価額表」としてこの数値を紹介しています。
「建物の標準的な建築価額」とは,国土交通省が公表している建築着工統計の「構造別:建築物の数,床面積合計,工事費予定額」を基に,1㎡当たりの工事費予定額を算出(工事費予定額÷床面積合計)したものです。
これによれば,建築年,建物の構造及び床面積がわかれば「標準的な建築価額」を算定することができ,これを基に減価償却後の取得費を算定することができます。
建築年,建物の構造及び床面積は建物の登記簿謄本(若しくは閉鎖謄本)に記載されていますので,取得時の資料が残っていない場合であっても,ほとんどのケースで取得費を算定することができます。
また,土地については一般財団法人日本不動産研究所が公表している「市街地価格指数」が参考になります。
「市街地価格指数」とは,全国主要198都市につき、年に2回(3月末と9月末),実際の利用形態にしたがって商業地域・住宅地域・工業地域の3つの地域に分類して不動産鑑定評価の手法に基づき更地としての評価を行い,調査時における調査地点の1㎡あたりの価格を求めて数値化したものです。
この指数は,例えば昨年11月に公表された「第161回「市街地価格指数」(2021年9月末現在の調査結果)」によれば,2010年3月末を100とした場合における2021年9月末時点における商業地の全国平均は87.9,商業地の東京区部平均は128.9というように,年ごとに比較ができる仕組みになっています。
よって,この数値を利用すれば,取得時の資料が残っていない場合であっても,譲渡した金額から取得費を推計することができます。
市街地価格指数以外に採用可能な変動率としては,路線価の変動率,公示価格,基準地価格の変動率,固定資産税評価額の変動率が考えられます。
特に路線価は国税庁が公表している数値であり,個々の土地に対する場所的同一性を担保しやすいため,変動率の信頼性は極めて高いと思われます。
ちなみに古い年の路線価は国立国会図書館で調べることが可能です。
このように,取得時の資料が残っておらず取得価額がわからない場合であっても,概算取得費5%を使用せずに譲渡所得の金額を計算することは可能です。
しかし,資料が残っていないからといって安易に推計によって取得費を算定するのは税務リスクがあると言わざるを得ないため,できる限り実額に近い取得価額を調査する必要はあります。
例えば,取得時の売買契約書が残っていなくても物件取得時に購入代金を振り込んだ通帳が残っていれば,それは実額に近いはずですし,借入をしていれば登記簿謄本の乙欄に抵当権が記載されているでしょうし,取得時に住宅ローン控除を適用していれば確定申告書に購入価額が記載されているはずです。
推計によって取得費を算定する場合であっても,こうした調査を行った上で,取得当時の相場観をある程度得られることができれば,仮に申告後に税務調査があったとしても説得力のある適切な説明を行うことが可能となり,否認されることなく税務調査を終えることができるものと思われます。
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生命保険契約照会制度
もしもの時のために多くの人が生命保険に加入していると思いますが,契約内容や保険証券の保管場所等を家族が知らない,知らせていないというケースは案外多いように思います。
そのような状況で一人暮らしの親が亡くなったり,認知症になったりしますと,相続人等は生命保険の加入状況がわからないため,預金通帳や保険会社からの通知を基に保険会社に問合せをして一契約ごとに保険の存在と契約内容を確認することになり,相続人等にとってはこの作業が非常に負担となります。
そこで,このような事例に対応するため,一般社団法人生命保険協会が「生命保険契約照会制度」を創設しましたので概要をご紹介します。
<制度の概要>
1.照会者が生命保険協会へ照会を申し出る。
2.生命保険協会が加盟している生保各社(全42社)へ生命保険契約の有無を照会する。
3.生保各社は照会対象者の契約有無を生命保険協会へ回答する。
4.生命保険協会は生保各社の結果を取りまとめて照会者へ回答する。
照会制度を利用できるのは,平時においては①親や家族が死亡したときや②認知判断能力が低下したときです。
災害時においては③災害救助法が適用された地域で被災したことによる死亡又は行方不明のときです。
照会制度を利用できる者は,平時において①照会対象者が死亡している場合や②認知判断能力が低下している場合は,法定相続人,法定代理人又は任意代理人,遺言執行人及び3親等内の親族等です。
災害時において③照会対象者が死亡又は行方不明となっている場合には,照会対象者の配偶者,親,子又は兄弟姉妹とそれらの法定代理人又は任意代理人です。
照会の申し出(申請)方法は,平時はインターネット又は郵送で,災害時には電話でも申請可能です。
制度の利用料は1回の照会につき税込3,000円で,クレジットカード払い又はコンビニエンスストアでの支払いとなります。
なお,災害時は利用料はかかりません。
照会者への回答内容ですが,平時において①照会対象者が死亡している場合には照会対象者に係る生命保険契約の有無と照会者が保険金等を請求することが可能な契約である場合にはその旨を,②照会対象者の認知判断能力が低下している場合には照会対象者に係る生命保険契約の有無のみとなります。
③照会対象者が災害により死亡若しくは行方不明となっている場合は照会対象者に係る生命保険契約の有無と照会者が保険金等を請求することが可能な契約である場合にはその旨となります。
したがって,上記のとおり生命保険協会からの回答内容は,原則として生保各社における契約の有無のみであるため,契約の存在が判明した場合には,契約内容の確認や保険金・給付金の請求については,当該契約に基づく権利を有する方から生保会社へ直接連絡する必要があります。
照会申請に必要となる書類は,照会者が誰であるかの区分に応じ厳格に定められています。
例えば,平時で照会対象者が死亡している場合において法定相続人が照会者である場合の必要書類は,照会者の本人確認書類,法定相続情報一覧図又は相続人と被相続人の関係を示す戸籍等及び死亡診断書となります。
以上,生命保険契約照会制度の概要をご紹介しましたが,このような制度を利用せずとも全ての生命保険契約の内容や保険証券の保管場所を家族が事前に把握しておくことが理想的であり,更に言えば,生命保険契約に限らず不動産の権利証や預金通帳等の保管場所も事前に家族と共有しておくことが重要と思われます。
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居住用財産の譲渡益に対する課税の特例
居住用財産を譲渡し譲渡益が生じた場合には,次の3つの課税の特例制度が用意されています。
・居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除
・居住用財産を譲渡した場合の軽減税率
・特定の居住用財産の買換え
<3,000万円特別控除の概要>
居住用財産を譲渡した場合には所有期間の長短に関係なく譲渡所得から最高3,000万円までを控除することができます。
主な適用要件は次のとおりです。
(1) 自己が居住している家屋及びその家屋とともにその敷地や借地権を譲渡すること。住まなくなった家屋や敷地等の場合には,住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに譲渡すること。
(2) 譲渡した年の前年,前々年にこの特例又は居住用財産の譲渡損失について損益通算及び繰越控除の特例の適用を受けていないこと。
(3) 譲渡した年,前年,前々年に居住用財産の買換えや交換の特例の適用を受けていないこと。
(4) 譲渡先が親子や夫婦など特別な関係者でないこと。
<軽減税率の概要>
居住用財産を譲渡し一定の要件に該当する場合には,通常所得税15%住民税5%の税率が,長期譲渡所得6,000万円以下の部分が所得税10%住民税4%に軽減されます(6,000万円超の部分は通常どおり)。※別途復興税有
主な適用要件は次のとおりです。
(1) 3,000万円特別控除の(1)と同様
(2) 譲渡した年の1月1日において所有期間が10年を超えていること。
(3) 譲渡した年の前年,前々年にこの特例の適用を受けていないこと。
(4) 譲渡した家屋や敷地について居住用財産の買換えや交換の特例など他の特例の適用を受けていないこと。ただし,3,000万円控除との併用は可能です。
(5) 譲渡先が親子や夫婦など特別な関係者でないこと。
<買換えの特例の概要>
特定の居住用財産を令和3年12月31日までに譲渡し,別の居住用財産に買い換えた場合において,一定の要件に該当する場合には,その譲渡益に対する課税を将来に繰り延べることができます(譲渡益が非課税となるわけではありません)。
主な適用要件は次のとおりです。
(1) 3,000万円特別控除の(1)と同様
(2) 譲渡した年,前年,前々年に3,000万円特別控除,軽減税率,居住用財産の譲渡損失について損益通算及び繰越控除の特例の適用を受けていないこと。
(3) 譲渡代金が1億円以下であること。
(4) 居住期間が10年以上で,かつ,譲渡した年の1月1日において所有期間が10年を超えるものであること。
(5) 買換える建物の床面積が50㎡以上で土地の地積が500㎡以下であること。
(6) 買換える建物が中古住宅である場合には25年以内に建築されたものであること,又は一定の耐震基準を満たすものであること。
(7) 譲渡先が親子や夫婦など特別な関係者でないこと。
<居住用財産の範囲>
上記特例制度の適用がある居住用財産とは,所有者が生活の拠点としている家屋をいい,これに該当するかどうかは,その者及び配偶者等の日常生活の状況,その家屋への入居目的,その家屋の構造及び設備の状況その他の事情を総合勘案して判定します。
上記特例制度の適用を受けるためだけの目的で入居した家屋,自己の居住用家屋の新築・改築期間中だけの仮住まいである家屋その他一時的な目的で入居したと認められる家屋や,主として趣味娯楽又は保養の目的で有する家屋(別荘等)は居住用財産に該当しません。
過去の裁判例においては,電気ガス水道の使用実績や郵便物の配達状況,電話架設の有無等も居住用財産に該当するか否かの判断材料となっていますので,単に住民票があるからといって必ずしも居住用財産に該当するとは限らないことに留意が必要です。
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