HOME >BLOG
高齢者の財産管理として注目される家族信託
超高齢社会となった我が国では高齢者の財産管理に問題が生じてきています。
平成29年度高齢者白書によると2025年には5人に1人が認知症になると推計されていますが,認知症になると財産管理及び処分が著しく難しくなります。
例えば,老人ホームに入所するための資金を捻出するために自宅を売却しようと思っても,認知症により判断能力がない場合には売買契約を締結するという法律行為を行うことができません。
また,本人が認知症となってしまったため家族が窓口で預金を引き出そうと思っても,成年後見制度等による本人を代理する権限がない限り,原則として金融機関は引き出しに応じてくれません。
よって,本人が意思を伝えられる元気なうちに,財産管理や処分について何らかの対策をしておくことは非常に重要です。
<法定後見制度>
法定後見制度は,認知症や知的障害等で本人の判断能力が不十分になった後に,家庭裁判所によって選任された成年後見人等が本人を法律的に支援する制度です。
親族が成年後見人等になれれば一番良いとは思いますが,様々な理由から親族以外の第三者(弁護士や司法書士等)が成年後見人等に選任されるケースの方が多く,その割合は平成30年で約76.8%です(厚労省発表)。
また,法定後見制度はあくまでも判断能力が無い人の生活を守るための制度ですので,基本的には自宅の売却,孫への贈与,投資商品の購入等はできません。
<任意後見制度>
第三者に財産を管理されることに抵抗がある場合には任意後見制度を利用すれば親族を後見人に指定することができます。
任意後見制度は,本人の判断能力が十分なうちに,あらかじめ,任意後見人となる人や委任する事務の内容(本人の生活,療養看護及び財産管理)を定めておき,本人の判断能力が不十分になった後に,任意後見人がこれらの事務を本人に代わって行う制度です。
親族や任意後見受任者が,任意後見人を監督する任意後見監督人の選任を家庭裁判所に申し立てて選任されると,任意後見契約の効力が生じ,任意後見人は契約で委任された内容を行うことができるようになります。
任意後見制度は委任契約の一種であり委任する事務の内容は契約によりますので,将来の自宅売却も契約内容に含めておけば,任意後見人は本人に代わって自宅を売却することができます。
<家族信託>
法定後見制度は見ず知らずの第三者が財産を管理する上に信託報酬が発生しますし,任意後見制度は親族が任意後見人になれますが,本人の判断能力が十分であるうちは任意後見契約の効力は生じません。
しかし,高齢者の中には判断能力が十分であるうちから財産管理を任せたいという根強いニーズがあり,そこで注目されているのが家族信託です。
家族信託とは,本人が所有する財産を信頼できる家族に託して管理や処分等をしてもらう制度です。
信託といいますととても難しいことのように聞こえるかもしれませんが,実務で行われる家族信託は,例えば次のようにとてもシンプルです。
登場人物は2人だけ
・委託者=財産の所有者=父親
・受託者=財産を託される人=息子
・受益者=利益を受け取る人=父親
ものすごく簡単に説明しますと,家族信託とは,父親が息子に自宅や貸アパートの管理,運用及び処分を任せて(委託し),そこから生じる収益は父親が受け取る,ということを,信託契約という形式にすることです。
一度家族信託を設定しますと,仮に信託期間中に委託者が判断能力を失ったり死亡した場合であっても,そのことが家族信託の終了事由となっていない限り,家族信託は継続されます。また,そのように設計することで遺言と同等の効果を得ることができますし,更に,次の世代まで受益者を連続して指定することも可能です。
家族信託は,工夫次第で様々な財産管理や遺産の分配を可能とする制度です。
※ブログの内容等に関する質問は一切受け付けておりませんのでご留意ください。
インボイス制度の概要の概要
2023年(令和5年)10月1日から,いよいよ適格請求書保存方式(インボイス制度)がスタートします。
インボイス制度が始まりますと確実に実務に大きな影響を与えますので,制度の内容をよく理解しておく必要があります。
以下,概要の概要をご説明します。
インボイス制度とは,適格請求書(インボイス)と呼ばれる一定の要件を満たす請求書を受け取った場合にのみ、消費税の仕入税額控除を認めるという制度です。
消費税は,ものすごく大雑把に言えば,売上げに係る消費税から,仕入れに係る消費税を控除して,プラスなら納税し,マイナスなら還付されます。
これまでは,原則として,仕入れに係る消費税を支払えば控除することができましたが,インボイス制度が始まりますと,インボイスが無い支払いについては控除することができなくなります。
よって,支払先がインボイス発行事業者ではない場合や,インボイス発行事業者であっても適正なインボイスを受け取っていない場合には,消費税の計算上控除できないので消費税の納税額が多くなってしまいます。
<インボイスを発行する側の対応>
インボイスを発行できるのはインボイス発行事業者として登録された消費税の課税事業者のみです。
これまで消費税の課税事業者であった法人又は個人事業主は,一般的には2023年(令和5年)3月31日までにインボイス発行事業者の登録申請をして、同年10月スタートのインボイス制度に備えます。
一方,消費税の免税事業者であった法人又は個人事業主は,まずはインボイス発行事業者になるか否かを判断する必要があります。
消費税の免税事業者は消費税の申告及び納税の必要はないものの,今後,インボイスを発行することができないため取引が減少してしまう恐れがあり,これらのメリット・デメリットを総合的に検討する必要があります。
インボイスには,次の7つの事項を記載する必要があります。
①発行者の氏名又は名称
②登録番号
③取引年月日
④取引の内容(軽減税率の対象品目である旨)
⑤税率ごとに区分して合計した対価の額及び適用税率
⑥税率ごとに区分した消費税額等
⑦受領者の氏名又は名称
上記のうち,②登録番号,⑤適用税率,⑥税率ごとに区分した消費税額は,新たに記載が必要と追加された項目です。
<インボイスを受け取る際の注意点>
インボイス制度がスタートしますと,適正なインボイスが無いと仕入税額控除ができないのですが,今後混乱が予想されるのが従業員の経費精算です。
従業員が立て替えた経費を精算する際に,会社は従業員から領収書等を受け取ると思いますが,この領収書等が適正なインボイスでない場合,法人税では損金(必要経費)となっても,消費税では原則として仕入税額控除できません。
免税事業者からの領収書はそもそも仕入税額控除できませんが,店舗名称と所在地だけをスタンプで押して手書きで金額が記載されている領収書や飲食店などの手書き領収書は、適正なインボイスでない場合が多いと思われますので要注意です。
宛名が従業員の名前となっている領収書については,上記⑦の要件を満たさないのでそのままでは仕入税額控除できません。
このような場合には,従業員から立替金精算書(名称は任意)を提出してもらい,立替金精算書+領収書等の保存をもってインボイス制度の要件を満たすこととなります。
電子帳簿保存法と相まって、制度スタート前から混乱必至のインボイス制度ですが,適正に経理処理の対応をしないと消費税の納税額に直接影響するだけに,制度スタートまでまだ1年ある今のうちに,余裕をもって適正な経理手順等を確認しておくことが賢明と思われます。
※ブログの内容等に関する質問は一切受け付けておりませんのでご留意ください。
財産債務調書制度の見直し
財産債務調書制度とは,一定の要件に該当する者はその所有する財産と債務を一覧にして所得税の所轄税務署へ提出しなければならない制度です。
以前の財産債務明細書制度を拡充して平成27年の税制改正において創設された制度ですが,この財産債務調書制度が令和4年の税制改正において改正されました。
<提出義務者>
まず,提出義務者についてですが,改正前は,(イ)所得金額2,000万円超,かつ,(ロ)総資産3億円以上又は有価証券等1億円以上を有する者でしたが,これでは所得金額2,000万円以下の者は多額の資産を有していても財産債務調書を提出する義務が無く,資産の異動状況について十分把握できていないという問題点があったため,改正後においては,現行の提出義務者に加え,総資産10億円以上を有する者は所得金額が2,000万円以下であっても(0円でも),財産債務調書を提出する義務を有することになりました。
実務的には,毎年の確定申告作業の際に,所得金額2,000万円超の人には個別に財産債務調書制度をお知らせして財産及び債務の状況を把握し,財産債務調書の提出義務の有無を判断することが多いため,改正後においては,多額の財産を有するものの所得税の納税義務が無い人について,財産債務調書の提出漏れとなる可能性があるため留意する必要がありそうです。
<提出期限>
次に,提出期限ですが,改正前は所得税の確定申告書の提出期限である翌年3月15日でしたが,改正後の提出期限は翌年6月30日となりました。
これは,確定申告書の提出義務は無いが財産債務調書の提出義務はあるという人に対応する上でも,歓迎すべき改正内容です。
<記載事項>
また,提出義務者の事務負担を軽減するという観点から,少額財産に関する記載を簡略化できる範囲が拡充されました。
改正前は,事業用の未収入金や借入金等で年末残高が100万円未満のものについては,所在別に区別することなく,件数及び総額で記載することができるとされていましたが,この範囲が300万円未満に拡充されました。
家庭用動産について,改正前は取得価額が100万円未満のものについては記載を省略することができましたが,改正後は300万円未満のものは記載を省略することができるようになりました。
預貯金口座について,改正前は全ての預貯金口座を記載する必要がありましたが,改正後は預入高50万円未満の預貯金口座については,預入高の記載は省略することができるようになりました。
事業又は業務を営んでいる者で青色申告決算書又は収支内訳書の「減価償却費の計算」欄に記載された減価償却資産については,資産ごとに区分してではなく,総額で記載することができるようになりました。
<宥恕規定>
提出期限後に財産債務調書が提出された場合であっても,更正又は決定があるべきことを予知してされたものでないときは,提出期限内に提出されたものとみなすという宥恕規定がありますが,この適用についても改正され,改正後は厳しくなります。
財産債務調書制度では,適正に記載した財産等に関して所得税等の申告漏れが生じた場合には,その財産等に係る過少申告加算税等を5%軽減する一方で,記載が無い財産に関して申告漏れがあった場合には,逆に過少申告加算税等を5%加重するということになっているのですが,これまで,提出期限までに財産債務調書を提出していない者が,税務調査の調査通知があった後,実際の調査日までの間に慌てて提出することで,この加算税の加重措置を回避する事例が見受けられました。
改正後は,宥恕規定は適用されないこととされましたので,加重措置を回避することはできなくなります。
上記宥恕規定の改正は,令和6年1月1日以後に提出される場合について適用され,それ以外は令和5年分の財産債務調書から適用されます。
※ブログの内容等に関する質問は一切受け付けておりませんのでご留意ください。
改正された賃上げ促進税制について
創設10年になる賃上げ促進税制は大企業向けと中小企業向けがあり,ほぼ毎年改正が繰り返されてきました。
今年も改正され,改正前よりは適用しやすくなりましたので,以下,賃上げ促進税制のうち中小企業向けの制度の概要をお知らせ致します。
中小企業向け賃上げ促進税制は,中小企業者等が,前年度より給与等を増加させた場合に,その増加額の一部を法人税から税額控除できる制度です。
<中小企業者等>
中小企業者等とは概ね次の法人をいいます。
・資本金の額又は出資金の額が1億円以下の法人
(ただし,発行済株式又は出資の1/2以上を一定の大規模法人に所有されている法人を除く)
・資本又は出資を有しない法人で従業員1,000人以下
・協同組合等
<適用要件と税額控除額>
・通常の場合
国内雇用者に対する給与等の支給額が前年度よりも1.5%以上増加した場合…増加額の15%を法人税額から控除できます。
・上乗せ要件(その1)
国内雇用者に対する給与等の支給額が前年度よりも2.5%以上増加した場合…通常15%+上乗せ15%=30%を法人税額から控除できます。
・上乗せ要件(その2)
教育訓練費(後述参照)の額が前年度よりも10%以上増加した場合…通常15%+上乗せ10%=25%を法人税額から控除できます。
※二つの上乗せ要件を満たすと最大控除率は15%+15%+10%=40%となります。
※改正前の経営力向上要件は廃止されました。
<主な用語の意義>
・国内雇用者…国内事業所の使用人でパート,アルバイト,日雇労働者を含みますが,役員及び役員の特殊関係者等は含みません。
・給与等…俸給,給料,賃金,歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与をいいます。退職金は含みません。
・雇用者給与等支給額…先述の「国内雇用者」に対する「給与等」のことです。前年度のものは「比較雇用者給与等支給額」といいます。
なお,増加率を算定する場合においては,給与等に充てるため他の者から支払を受ける金額を控除することになっています。具体的には各種補助金や助成金,親会社からの出向負担金等です。
ただし,雇用調整助成金等の雇用安定助成金額は控除しなくて良いことになっています。
・教育訓練費…国内雇用者の職務に必要な技術又は知識を習得させ,又は向上させるために法人が支出する費用をいいます。具体的には,教育訓練を法人自ら行う場合の外部講師への謝金や外部施設使用料等,他者に教育訓練を委託する場合の研修委託費や外部研修参加費等。
<適用期間>
令和4年4月1日から令和6年3月31日までに期間内に開始する事業年度が対象です。
<実務的対応>
本制度を利用するためだけに月額賃金を増加させるのは,経営的にはいささかハードルが高いように思いますが,例えば,当年度給与等の支給額の増加率を事前に試算しておき,賞与だけを当初支給予定額よりもアップすることで本制度の適用を受けるというのは有り得るように思います。
また,通常の場合の15%税額控除の適用を受けられそうだと予め判明していれば,上乗せ要件(その2)である教育訓練費について追加で検討するということも有り得そうです。
いずれにしても事前に給与等の増加率をシミュレーションしておくと,余裕をもって対応できそうです。
※ブログの内容等に関する質問は一切受け付けておりませんのでご留意ください。
通常の贈与と教育資金の一括贈与
個人からの贈与により取得した財産は原則として贈与税の課税対象となりますが,扶養義務者相互間における生活費又は教育費に充てるためにした贈与で通常必要と認められるものについては,贈与税は課税されません(ちなみに法人からの贈与により取得した財産は贈与税の課税対象とはなりませんが,一時所得として所得税の課税対象となります)。
これは,日常生活に通常必要となる費用を扶養義務に基づいてした贈与についてまで課税するのは適当でないからです。
扶養義務者とは,次の者をいいます。
①配偶者
②直系血族及び兄弟姉妹
③家庭裁判所の審判を受けて扶養義務者となった三親等内の親族
④三親等内の親族で生計を一にする者
なお,扶養義務者に該当するか否かは,贈与があった時の状況により判断します。
通常必要と認められるものとは,被扶養者の需要と扶養者の資力その他一切の事情を勘案し,社会通念上適当と認められる範囲の財産をいいます。
よって,一律に判断されるものではなく,人や時代により異なります。
贈与税が非課税となる生活費とは,その者の通常の日常生活を営むのに必要な費用(教育費を除く)をいい,治療費,養育費その他これらに準ずるものを含みます。
ただし,保険金や損害賠償金により補填される部分の金額を除きます。
なお,具体的にどの程度のものまで生活費として認められるかについては,一律に決めることは適当でないので,個々の事情に即して社会通念に従って判断すべきものとされています。
次に,贈与税が非課税となる教育費とは,被扶養者の教育上,通常必要と認められる学資,教育費,文具費等をいいます。
義務教育費に限りませんので,幼稚園,高校,大学,各種学校等の義務教育以外の教育に要する費用も広く含まれます。
贈与税が非課税となる生活費又は教育費は,それが必要となる都度,直接これらの用に充てられるためにされた贈与である必要があります。
生活費又は教育費の名義で取得した財産であっても,これを預貯金とした場合や株式の買入代金又は家屋の買入代金等に充当したような場合には,贈与税が非課税となる生活費又は教育費には該当しません。
なお,離婚又は認知があった場合において,その離婚又は認知に関して子の親権者又は監護者とならなかった父又は母から,生活費又は教育費に充てるためのものとして子が一括して取得した金銭等については,その額がその子の年齢その他一切の事情を考慮して相当と認められる場合に限り,通常必要と認められるものとして取り扱われます。
以上のとおり,父母や祖父母が子の生活費又は教育費をその必要となる都度負担してあげても(贈与しても),通常必要と認められる範囲内であれば贈与税が課税されることはないのですが,教育費については将来にわたり多額の資金が必要であり,一括贈与のニーズも非常に高いです。
そこで,高齢者が保有する資産を若い世代へ移転させることで,子供の教育資金の早期確保を進め,多様で層の厚い人材育成に資するとともに,教育費の確保に苦心する子育て世代を支援し,経済活性化に寄与することを期待するという趣旨で,平成25年に「教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税」という制度が創設され,今に至っています。
制度の概要は次のとおりです。
・贈与者:直系尊属(祖父母等)
・受贈者:30歳未満の孫等(前年の合計所得金額1,000万円以下の者に限る)
・非課税額:孫等ごとに1,500万円(学校以外の者に支払われるものは500万円)
・贈与方法:教育資金管理契約に基づき銀行等へ預け入れる方法等
・管理方法:贈与者が受贈者の銀行口座等へ教育資金を預け入れる→受贈者は教育資金の領収書等を銀行へ提出する→銀行は受贈者へ教育資金を払い出す
受贈者が30歳(在学中の場合は最高40歳)に達する等一定の事由に該当した日に口座は終了し,その時点で残高があれば贈与税が課税されます。
※ブログの内容等に関する質問は一切受け付けておりませんのでご留意ください。