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空き家に係る譲渡所得の特別控除
総務省統計局による「住宅・土地統計調査」によりますと,空き家のうち賃貸用・売却用・二次的住宅(別荘)以外の今後利用が予定されていない空き家は,平成10年から平成30年の20年間に約1.9倍の182万戸から347万戸に増加しており,今後も急速に増加していくと予想されています。
適切に管理されずに放置されたままの空き家は,腐蝕等による倒壊の恐れ,アスベストの飛散やゴミによる悪臭,不審者の出入り,不審火や放火の恐れといった衛生面や防犯上の問題が生じるため,看過することはできません。
そこで,これ以上の空き家の増加を抑制するため,譲渡を促すという観点から,平成28年度税制改正により,空き家に係る譲渡所得の特別控除が創設されました。
この特例は,「一人暮らしだった被相続人が居住していた土地及び家屋を相続した相続人が,その相続開始から3年を経過した日の属する年の12月31日までに譲渡した場合には,その譲渡益から3,000万円を控除する」というものです。
概要は次のとおりです。
<家屋及び敷地に関する要件>
・相続等により取得した家屋及びその敷地であること。
・相続開始の直前において,被相続人が一人で居住していた家屋であること。
※ただし,次の要件を満たした場合は被相続人が相続開始の直前に居住していたものと認められます。
①被相続人が介護保険法に規定する要介護の認定を受け老人ホームに入所し,かつ,相続開始の直前まで老人ホームに入所していたこと。
②被相続人が老人ホームに入所した時から相続開始の直前まで,その家屋について,その者による一定の使用がなされ,かつ,事業の用,貸付の用又はその者以外の者の居住の用に供されていたことがないこと。
・昭和56年5月31日以前に建築された区分所有建築物以外の建物であること。
・相続時から売却時まで,事業の用,貸付の用,居住の用に供されていないこと。
<譲渡に関する要件>
・平成28年4月1日から令和5年12月31日までの間に行われる譲渡であること。
※令和5年度税制改正において,令和9年12月31日までの譲渡に延長される予定です。
・相続開始があった日から同日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までの間にした譲渡であること。
・その譲渡対価の額の合計額が1億円以下(共有で譲渡する場合には合計額が1億円以下)であること。
・耐震リフォーム等により,譲渡時において耐震基準に適合することが証明された家屋の売却であること,又は相続人が家屋を取壊して売却すること。
※令和5年度税制改正において,売買契約等に基づき買主が譲渡の日の属する年の翌年2月15日までに耐震改修又は除却工事を行った場合には,工事の実施が譲渡後であっても,売主は同特例の適用を受けられるようになる予定です。
・被相続人居住用家屋とその敷地の両方を譲渡するものであること(よって,どちらか一方しか相続していない場合には当該特例の適用はありません)。
<特別控除額>
・相続人1人当たり3,000万円(当該譲渡による所得金額が3,000万円に満たない場合にはその金額まで)。
※令和5年度税制改正において,当該特例の適用を受ける相続人の数が3人以上の場合における特別控除額は1人2,000万円となる予定です。
<留意事項等>
相続税額の取得費加算の特例(相続により取得した財産を譲渡した場合に納めた相続税額の一定金額を譲渡資産の取得費に加算することができるという特例)等の他の特例との併用が認められないケースもありますので,複数の特例の適用要件を充足する場合には,最も有利となる特例を選択する必要があります。
また,相続とは関係なく自己の居住用不動産を譲渡する予定がある場合には,複数年にわたり特別控除の適用を受けることができるよう譲渡する年をわけるなど,計画的な譲渡をお勧め致します。
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休眠会社等の整理作業(みなし解散)と法人税の関係
株式会社を設立した後に登記事項に変更が生じた場合は,その変更後2週間以内に変更登記をする必要があります。
商号を変更した場合や本店所在地を変更した場合は変更登記を失念することは少ないと思いますが,役員の任期満了による変更登記は意外と忘れがちなので注意が必要です。
株式会社の取締役には任期があり,会社法の規定により原則として2年,定款の規定により最長10年まで延長が可能ですので,少なくとも10年に一度は役員変更登記がされることになります(任期満了後,間を置かずに同じ人が役員に再任された場合も変更登記が必要です)。
ところで,上記のような登記義務があるにも関わらず長期間登記がされていない株式会社,一般社団法人又は一般財団法人は,既に事業を廃止し実体がない状態となっている可能性が高く,このような休眠状態の株式会社等の登記をそのままにしておくと,商業登記制度に対する国民の信頼が損なわれることになりかねません。
そこで,平成26年度以降は,株式会社については最後の登記から12年を経過しているもの,一般社団法人又は一般財団法人については最後の登記から5年を経過しているものについては,法務大臣による官報公告を行い,2か月以内に「まだ事業を廃止していない」旨の届出か役員変更等の登記の申請がない限り,みなし解散の登記をすることとしています。
ちなみに,令和3年までに約65万社の株式会社がみなし解散の登記をされています。
法務大臣の官報公告は毎年10月頃に行われ,対象となる会社や法人に対しては,管轄の登記所より,法務大臣による公告が行われた旨の通知書が送付されます。
登記を失念していて,官報公告されてしまった場合であっても,公告から2か月以内に必要な登記申請をするか,あるいは「まだ事業を廃止していない」旨の届出をすると,みなし解散登記を回避することができます。
ただし,「まだ事業を廃止していない」旨の届出をしても,必要な登記申請を行わない限り,また翌年度も休眠会社等の整理作業の対象となります。
また,公告から2か月以内に登記申請をした場合であっても,本来申請すべき時期に登記を怠っていた事実は解消されませんので,裁判所から100万円以下の過料が科されます。
このように,みなし解散登記は無予告でいきなりされるわけではありませんが,事業を継続しているにも関わらず,登記所からの通知書にも気付かずにみなし解散登記がされてしまった場合であっても,みなし解散登記後3年以内であれば,会社継続の登記をすることで清算中の会社を復活させることができます。
ただし,みなし解散登記がされてしまうと,法人税との関係で不利益を被る場合があります。
まず,みなし解散登記がされますと,その解散の日で事業年度が一旦終了しますので,その解散の日から2か月以内に法人税の申告書を提出する必要があります。
次に,みなし解散登記がされて清算中となった法人が会社継続の登記をした場合も,会社継続の日の前日で事業年度が一旦終了しますので,そこから2か月以内に法人税の申告書を提出する必要があります。
更に,会社継続の日から本来の会計期間の末日までが一事業年度となりますので,ここでも2か月以内に法人税の申告書を提出する必要がありますので,場合によっては一年の間に3回も法人税の申告書を提出する必要があります。
これだけでも充分負担ですが,通常,みなし解散登記がされたことに気付くのは上記それぞれの申告期限を経過した後だと思いますので,多くのケースで結果として2期連続して期限内申告を怠ったこととなり,青色申告の承認が取り消される可能性が高いです。
青色申告の承認が取り消されますと,青色申告のメリットである欠損金の繰越控除や繰戻還付,少額減価償却資産の損金算入の特例,青色申告を要件とする各種特別控除等の適用を一切受けることができなくなり,その影響は甚大です。
くれぐれも,みなし解散登記をされることのないようご注意下さい。
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副業節税にご用心
ここ数年,政府が副業を推進していることもあり,日本企業の中でも副業を認めるケースが増加しているようですが,給与所得者によるいわゆる「副業節税」をめぐり,課税当局とトラブルになるケースが増加しているようです。
何が問題視されているのか,以下,概観してみたいと思います。
給与所得者Aさんは,令和4年中に副業を開始し,税務署に開業届を提出しました。
もうすぐ令和4年が終わりますが,副業開始初年は収入よりも必要経費の方が多くかかり,マイナスとなりそうです。
年明けに確定申告をしますが,副業が「事業所得」に該当する場合には,給与所得と相殺することができるので給与所得から源泉徴収された所得税の還付を受けることができます(これを「副業節税」という)が,副業が「雑所得」に該当する場合には給与所得と相殺できないため,原則としてそのマイナスは無かったものとみなされ,当然,還付はありません。
では,何を基準に事業所得あるいは雑所得に該当すると判断するのか,ですが,所得税法においては「事業」から生ずる所得は事業所得に該当し,事業と称するに至らない程度の「業務」から生ずる所得は雑所得に該当すると区分しているものの,「事業」とは何かの明確な定義規定はありません。
政令において「対価を得て継続的に行う事業」が事業所得に該当する,と定めているに過ぎません。
この点につき最高裁昭和53年10月31日判決(訟月25巻3号889頁)は,
「『対価を得て継続的に行う事業』に該当するか否かは,結局,一般社会通念に照らして決めるほかないと思われるが,その判断に際しては,営利性・有償性の有無,継続性・反復性の有無のほかに事業としての社会的客観性の有無が問われなければならず,この観点からは,当然にその取引の種類,取引における自己の役割,取引のための人的・物的設備の有無,資金の調達方法,取引に費やした精神的,肉体的労力の程度,その者の職業・社会的地位などの諸点が,検討されなければならない」
としています。
よって,その人の営む副業が事業所得あるいは雑所得のどちらに該当するのかは個別に判断するしかありませんが,国税庁は,令和4年10月7日に所得税基本通達35-2(業務に係る雑所得の例示)を改正し,国税庁としての見解を公表しました。
注目すべきは新たに付された注意書き部分で,
「事業所得と認められるかどうかは,その所得を得るための活動が,社会通念上事業と称するに至る程度で行っているかどうかで判定する。なお,その所得に係る取引を記録した帳簿書類の保存がない場合(その所得に係る収入金額が300万円を超え,かつ,事業所得と認められる事実がある場合を除く。)には,業務に係る雑所得(中略)に該当することに留意する。」
と示されたことです。
注意書き前半は,前掲最高裁判決が判示した「社会通念で判断」をそのまま踏襲しておりますが,後半のなお書き部分は,取引を記録した帳簿保存が無い場合には雑所得に該当すると明示しました。
ただし,カッコ書きにおいて,その所得に係る収入金額が300万円を超え,かつ,事業所得と認められる事実がある場合を除く,となっていますので,この場合には帳簿保存が無くても原則に立ち返り社会通念で判断することになります。
上記通達をまとめると次のようになります。
収入金額 | 帳簿保存有り | 帳簿保存無し | ||
300万円以下 | 社会通念で判断 | 雑 | ||
300万円超 | 原則:雑例外:事業(注1) | |||
(注1)事業所得と認められる事実有りの場合 |
副業と称するくらいですから一般的には給与所得者が行う副業は雑所得に該当すると思われますが,仮に事業所得に該当するケースがあるとしても,事業と称するレベルで副業を行って赤字を生むというのも本末転倒であり,その赤字を給与所得と損益通算するというのはそもそも無理があるように思いますので,安易な副業節税にはご注意下さい。
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不動産所得に係る損益通算の取扱いについて
所得税は総合課税を原則としていますので,基本的には個別に計算した各種所得の金額を総合して税額計算を行いますが,各種所得の金額のうち損失が生じているものがある場合には,一定の順序によりその損失の金額を他の所得から差し引くことができます。これを損益通算といいます。
所得税法が定める所得は全部で10種類ありますが,損益通算できる損失は,不動産所得,事業所得,山林所得及び譲渡所得の4種類だけです。
損益通算には細かいルールがたくさんあるのですが,これらのうち不動産所得に関する主な事項は次のとおりです。
<不動産所得に係る損益通算の特例>
不動産所得の金額がマイナスとなった場合において,必要経費に算入した金額のうちに業務の用に供する土地又は土地の上に存する権利を取得するために要した借入金の利子の額があるときは,その損失の金額のうち,次の区分に応じて計算した金額については生じなかったものとみなされます。すなわち損益通算できません。
(1)借入金利子>損失金額
損失金額全額が損益通算不可。
不動産収入100 必要経費120(うち借入金利子30)
不動産所得100-120=-20 → 0
損失金額20は全て借入金利子で構成されていると考えられるので損益通算できません。
(2)借入金利子<損失金額
損失金額のうち借入金利子部分は損益通算不可。
不動産収入100 必要経費120(うち借入金利子5)
不動産収入100-120=-20 → -15
損失金額20のうち5は借入金利子で構成されているので,5を差し引いた15だけ損益通算できます。
区分所有マンション等のように,土地と建物を一括して借入金で取得した場合は,その借入金はまず建物の取得に充てられたものとして計算することができます。
不動産所得の損失金額につき損益通算が制限されるようになったのは平成4年からですが,当時,土地は必ず値上がりするものと考えられており,借入金で不動産を購入し利息を支払うことで意図的にマイナスの不動産所得を生じさせ,給与所得と損益通算することで所得税の還付を受けるという節税策が流行したことが背景にあります。
<国外中古建物の不動産所得に係る損益通算の特例>
国外中古建物に係る賃料収入がある場合において,その年分の不動産所得の金額の計算上,国外不動産所得の損失の金額があるときは,その損失の金額のうち,その国外中古建物の償却費の額のうち一定の金額については生じなかったものとみなされます。
一定の金額の計算方法は,前述の借入金利子の場合と同様で,借入金利子を償却費の額と読み替えて下さい。
国外中古建物の不動産所得の損失金額につき損益通算が制限されるようになったのは令和3年からですが,それは,法定耐用年数のほとんどを経過した国外の中古建物を購入して過大な減価償却費を計上することで意図的にマイナスの不動産所得を生じさせ,給与所得と損益通算することで所得税の還付を受けるという節税策が流行したことが背景にあります。
米国等では数十年経過した中古建物であっても価値が下がらないため,購入後数年間はこの節税策で所得税の還付を受け,その利益を享受した後にそれほど値下がりしない金額で売却して資金を回収するということが可能でした。
<別荘を賃貸したことによる損失の金額>
所有している別荘を自己が利用しない期間に賃貸した場合の不動産所得につき損失が生じた場合には,その損失の金額は「生活に通常必要でない資産」に係る損失の金額であるため生じなかったものとみなされ,損益通算することはできません。
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源泉徴収制度について
所得税は,納税者が自らその年の所得金額とこれに対する税額を計算して,これらを自主的に申告・納付する「申告納税制度」を採用していますが,これと併せて特定の所得については,その所得の支払者がその支払の際に所得税を徴収して国に納付する「源泉徴収制度」を採用しています。
源泉徴収制度と申告納税制度の関係を税理士を例にとって説明しますと,税理士に報酬を支払う法人はその支払いの際に,一定の所得税を源泉徴収して国に納付しなければならず(ここまでが源泉徴収制度),そして税理士は,自らが所得金額と税額を計算して確定申告する際に,源泉徴収された所得税を自らが前払いした所得税として認識し,過不足を精算する(ここが申告納税制度)ことで課税関係が完結するという関係です。
源泉徴収の対処となる所得を支払う者で所得税を源泉徴収する義務を有する者を「源泉徴収義務者」といいますが,源泉徴収は義務ですのでそれを怠ると当然罰則があります。
前述した源泉徴収制度と申告納税制度との関係から,報酬を支払う法人が源泉徴収を失念しても,報酬を受け取った個人が確定申告すれば最終的には国に納付する税額は同額になるので問題ない,と考える向きもありますが,法律の構成上も過去の裁判例からもこういった主張は認められません。
源泉徴収義務者が源泉徴収を失念して満額を支払ってしまった場合には,支払いを受けた者から源泉徴収すべきであった金額を返還してもらい,あらためて源泉徴収義務者が国に納付する必要があります。
返還を受ける前に源泉徴収義務者が源泉徴収すべきであった金額を国に納付した場合には,支払いを受けた者に対し求償権が発生します。
この求償権を行使して源泉徴収すべきであった金額を回収できれば良いのですが,様々な理由から回収できなかった場合には,その求償権に相当する金額が追加で所得を支払ったと認識され,その追加所得に対する新たな源泉徴収義務が生じるといった堂々巡りの状態となってしまいます。
実務では逆算して源泉徴収すべき金額を計算するなどして堂々巡りにならないよう対処しますが,いずれにしても源泉徴収義務を怠ると結構厄介です。
源泉徴収を失念した場合等を含め,納付すべき源泉徴収による国税を法定納期限までに納付しなかった場合には,原則として,納付すべきであった金額の10%に相当する不納付加算税が課税されます。
また,法定納期限から納付された日までの延滞税も課税されます。
ところで,法人経理において,個人に対する支払いについて全て所得税を源泉徴収しているケースをまま見かけますが,「源泉徴収の対象となる所得」とは所得税法に定められた所得だけをいいますので,個人に対する支払いであってもその全てが源泉徴収の対象となるわけではありません。
しかし,源泉徴収の対象か否かの判断が難しいため,個人に対する支払いについて全て所得税を源泉徴収してしまっても,支払いを受けた個人からすれば,いずれ確定申告で源泉徴収された所得税を精算するわけであり,源泉徴収義務者である法人からすれば,判断を誤って源泉徴収せずに不納付加算税や延滞税を課税されるといったリスクを回避できるわけですから,こういった処理は実務的な知恵であり,支払いを受ける個人から同意を得ているのであれば何ら問題ないと思われます。
源泉徴収が必要となる所得は,上記の報酬・料金以外にも,給与所得,退職所得,公的年金等,利子所得及び配当所得など多岐に渡ります。
また,非居住者や外国法人に対しては,不動産の譲渡対価や賃貸料に対しても源泉徴収義務を有する場合があり,特に注意が必要です。
一般的に不動産譲渡は金額が大きいため源泉徴収すべき金額も大きくなりますが,これを失念しますと,まずは源泉徴収義務者として源泉徴収すべきであった金額を国に納税し,同額の求償権が発生するものの海外にいる非居住者や外国法人から回収するのは容易ではなく,仮に回収不能となった場合の影響は甚大です。
個人や外国法人へ支払いをする際は,常に源泉徴収義務を意識して,不利益を被らないよう注意しましょう。
※ブログの内容等に関する質問は一切受け付けておりませんのでご留意ください。