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現在検討されている注目すべき新しい税制
政府・与党は次々と新しい税制の導入を検討しています。以下にそのいくつかをご紹介します。
<消費税の軽減税率導入>
衆議院選挙の結果を受けて,自民党と公明党は連立政権合意を結び,消費税の軽減税率について「消費税率10%時に導入する」と明記しました。
食料品等の生活必需品は税率8%に留めるという内容のようです。
ちなみに日本税理士会連合会は軽減税率導入には反対の姿勢を示しています。
その主な理由は,税収の減少,低所得者対策効果としては限定的,対象項目の合理的判定が困難,適用範囲を巡る訴訟の増加,納税者の事務負担増大等です。私も軽減税率導入には反対です。
<出国税の導入>
有価証券を売却して利益を得た時の課税権は売却した人の居住国にあります。
日本で売却すれば日本に課税権がありますが,他国で売却した場合は他国に課税権があります。世界中には色々な国がありますので有価証券を売却した利益に対して課税していない国(香港やシンガポール等)もあります。
そこで,巨額の含み益がある有価証券を持ったままシンガポールへ出国し,日本の非居住者になってからその有価証券を売却しますと,日本の課税権は及ばないので日本の税金は課税されず,且つ,シンガポールはもともと有価証券売却益は非課税なので結果として何ら課税されないこととなります。
これをシャットアウトする税制が出国税です。
日本から出国する際に,所有している有価証券を売却していなくても,売却したものとみなして課税する制度です。政府は2016年からの導入を目指しています。
<結婚・出産・育児支援のための一括贈与>
現在の税法では,親や祖父母が子や孫に対して結婚や出産の御祝い金を渡しても,社会通念上の範囲内であれば贈与税は課税されません。
しかし,将来結婚や出産するであろうということで御祝い金を予め渡しますと贈与税課税の問題が出てきます。
そこで政府は,子や孫の結婚・妊娠・出産・育児を支援するために贈与する場合には,信託銀行に信託する等の条件を付した上で,1,000万円の非課税枠を設けることを検討しています。
具体的には,現行の「教育費を一括贈与した場合の非課税制度」と同様の仕組みで,親や祖父母が信託銀行に資金を信託し,子や孫は結婚や育児に関する領収書を信託銀行に提出してお金を引き出し,これについては非課税とし,子や孫が50歳に達した時点で口座に残っている資金については贈与税を課する,というものです。
この制度を利用して,祖父母が生まれたばかりの孫に一括して贈与しますと,銀行は最長で57年間(50年+更正期限7年)も領収書等を管理する必要があります。半世紀以上です。本当に適正に管理できるのか,疑問です。
<番外編:ふるさと納税>
最近,注目のふるさと納税ですが,自治体から受領した特産品の経済的利益は,一時所得として課税の対象となりますから要注意です。国税庁のHPにも掲載されています。
尚,一時所得は50万円までは課税されませんので,受領した特産品の合計の時価が50万円以下であれば,他に一時所得がない限り,課税の心配はありません。
12月の駆け込み節税
<株で利益を出した人>
一般的には利益の20%が譲渡所得税として課税されますが,含み損の株式を年内に売却しますと利益と損失が相殺され節税となります。
継続所有したい株の場合は売値で買い戻しましょう。
<今年の贈与は12月までに>
基礎控除110万円の一般贈与税は暦年単位課税ですので贈与予定の方は12月中に行いましょう。
200万円を贈与したい場合,全額を12月に贈与しますと贈与税は9万円※1となりますが,12月と翌年1月にそれぞれ100万円贈与しますと,それぞれ基礎控除以下となり贈与税は0円です。
※1 (200万円-110万円)×税率10%=9万円
<ふるさと納税も暦年単位>
人にもよりますが年収1,000万円の人が8万円寄付しますと税金が7.8万円減となり実質負担2,000円です。
しかも各自治体は特産品を用意していますので,2,000円均一の通販のようなものです。
<消費税の届出>
H27年に消費税課税事業者となる方で簡易課税の適用を受けたい方,或いはH26年まで簡易課税の適用を受けていたがH27年では受けたくない方,いずれも年内に届出が必要です。
簡易課税の適用の有無で,場合によっては大幅に税額に差が生じることがありますので慎重に対応して下さい。
<小規模企業共済>
小規模企業共済は会社役員又は個人事業主の駆け込み節税の定番で,実質的に積立貯蓄であるにも関わらず最大月額7万円が所得控除されます。
年内に12ヵ月分84万円を一括前納しますと全額所得控除が可能です。但し,副業アパート経営のサラリーマンは対象外です。
<経営セーフティー共済>
経営セーフティー共済は最大月額20万円が必要経費になる実質積立貯蓄制度です。
積立上限は800万円で,40ヶ月経過すれば任意解約でも全額返金されます。
支払時に必要経費計上,返金時に雑収入計上ですから,正確には節税というよりは課税の繰延ですが,一時の納税を回避するには便利な制度です。
年内に12ヵ月分240万円を一括前納しますと全額必要経費計上可能です。
残念ながら不動産所得の個人は対象外で,法人ならば不動産賃貸業でも加入できます。
<家賃を年払いに変更>
月払い家賃を年払いに契約変更して年内に1年分前払いしますと,継続適用を条件に1年分全額が年内の必要経費となります。
弁護士や税理士の顧問料は1年分前払いしても全額経費は無理です(判例有)。
いずれの方法も詳細な条件を確認の上ご活用下さい。
改めて贈与の基礎知識
民法上,贈与とは,贈与者が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し,これを受贈者が受諾することによって効力が生ずる契約です。
「あげますよ。」「はい,もらいます。」という関係が必要で,一方的に「あげます。」だけでは贈与契約は成立していないと考えます。
贈与の時期について,民法は,「贈与契約が成立した時点」としていますが,これを税法にそのまま当てはめると様々な課税上の問題が生じます。
そこで税法では,「贈与契約が成立した時点」=「贈与税の納税義務が成立」とはしていません。明文の規定を置かずに,贈与税の納税義務は,「贈与財産を自由に使用・収益・処分する権利が受贈者に移転した時点」に成立するとしています。
課税当局の通達では,書面による贈与についてはその契約の効力の発生した時,書面によらない贈与についてはその履行の時,としています(相基通1の3・1の4共-8)。
例えば,親から子に不動産を贈与するという公正証書を作成し6年経過後に登記したとします。民法上の贈与契約成立は公正証書作成時だとしても,税法上はあくまでも登記した時です。よって,贈与契約成立から6年経過しているから贈与税は時効で課税できない,とはなりません。そのように判示した裁判例もあります(名古屋高裁H10.12.25判決等)。
また,贈与に関して頻繁に問題になるのは名義預金です。亡くなった方が相続人に黙って或いは了解を得て相続人名義で銀行口座を開設し,預金をしていたとします。この預金の名義は確かに相続人名義ではありますが,通帳の管理も印鑑の管理も亡くなった被相続人がしていたならば,それは被相続人の預金として相続税の課税の対象となります。生前に贈与によりもらっていた,という主張は通りません。その預金を使用・収益・処分することができたのは被相続人であったからです。
贈与の事実を立証するには,贈与契約書の作成は有効です。氏名と日付は印字ではなく自筆とし,出来れば公正証書が望ましいです。公正証書はちょっと手間,と思われる方は,作成した贈与契約書に任意の切手を貼って郵便局に持参しますと切手に消印を押してくれますので,これを保管しておくと贈与契約書作成日時の証明にはなります。
まだ贈与という言葉を理解できない未成年者であっても,贈与により財産を取得することは可能です。
この場合は,親権者である父母が子の代理として贈与契約書に署名押印をします。親子間の贈与であっても親権者である父母の代理行為が子に何の不利益も及ぼさないため,家庭裁判所による特別代理人の選任は不要です。
贈与後は親権者である父母が通帳と印鑑を管理し,遅くとも受贈者が成人に達したときにはこれらを本人に渡し,自由に使用・収益・処分することができる状態にしておく必要があります。
贈与を行う際には後の課税当局とのトラブルをできるだけ避けるため,整合性のある客観的な証拠を多く残すことが重要で,特に親族間の場合には証拠の一貫性と矛盾の排除に努めたいところです。
法人の役員報酬について
法人税法上,法人に支給する役員報酬は使用人給与とは区別され様々な規制があります。
上場会社は別として,同族会社の場合は役員報酬をある程度自由に決定することができますので,それを全部認めていたら課税上弊害があるからです。
例えば,ある法人が今年度役員報酬を1,000万円と決定していたところ,期末になって利益が500万円出そうだから役員報酬を予定より500万円多く支給したとします。そうすると当然利益は0円となり法人税も0円です。これを認めてしまうと法人税は常に0円となってしまいます。
そこで,法人税法では,「定期同額給与」といいまして,原則として最初に決定した月額役員報酬は1年間変更できないことになっています。
定期同額給与の条件は要約すると次のとおりです。
①支給時期が1ヶ月毎で,その支給額が毎月同額であること。
②金額が改定された場合は事業年度開始から3ヶ月以内の定時株主総会で改定されたものであること。
この定期同額給与に該当しない役員報酬は,支給しても原則として法人税の損金としては認めてもらえませんので注意が必要です。
定期同額給与以外で法人税法上認められる役員報酬に「事前確定届出給与」というものがあります。
これは,ある時期にいくらを支給すると事前に税務署に届出ておく役員報酬で,例えば,6月と12月にそれぞれ100万円をA役員に支給すると事前に届出ておいて,その通りに支給した場合はそのまま損金として認められる,というものです。
しかし,届出と違う時期に支払ったり,違う金額で支払ったりした場合は損金として認められません。
ここで注意すべきは,届出た金額は上限ではないということです。6月に100万円を支払うと届出たが実際には90万円を支払った場合,届出た金額以下だから認められるだろうと思いがちですが,この場合90万円全額が否認され損金となりません。
また,定期同額給与や事前確定届出給与に該当した場合であっても,過大な役員報酬は損金として認められません。この場合において,何をもって過大と判断するかは難しいところですが,法人税法には実質基準と形式基準というものが設けられており,それに照らして判断することになります。
実質基準では,役員の職務の内容,法人の収益,使用人に対する給与の支給状況,類似法人の役員報酬の支給状況等を総合勘案して判断されます。
また,形式基準では,定款の規定や株主総会等の決議によって定められた支給限度額以内であるか等を基準に判断されます。
上記以外にも,使用人兼務役員に対する賞与や役員退職金に関する規定,役員が関連会社に出向や転籍した場合の取扱い等もあり,かなり複雑な事項となっていますので,役員に対する報酬については慎重な対応が望まれます。
タワーマンションによる相続税対策
最近,注目されているタワーマンションによる相続税対策を解説します。
但し,賃貸物件としての購入はお勧めしません。あくまでも自己或いは親族使用の場合に限ります。
マンションは土地の敷地持分と建物持分で構成されています。
よって,相続税の計算上も土地の敷地持分と建物持分をそれぞれ評価しますが,土地はマンション敷地全体を路線価で評価し,それに持分を乗じて計算します。建物は住戸ごとに固定資産税評価額が付されますのでそれを使用します。
東京都心部にある某タワーマンション20階に5,000万円で販売された住戸がありまして,この住戸のH25年分建物固定資産税評価額は600万円でした。
土地は路線価から敷地全体を評価し,それに持分を乗じると1,000万円でした。合計1,600万円です。
購入価額は5,000万円でも相続税評価額は1,600万円です。
何故このような差が生じるかと言いますと,マンションの多くは近隣の専有面積当たりの単価を相場として価格設定されるため,土地の実勢価格とリンクしなくなるためです。
特に容積率割増を受けた大規模タワーマンションは,一住戸当たりの土地持分が少ないので相続税評価額は実際の販売価格よりもずっと低くなります。
タワーマンションは上層階と下層階とで販売価格に大きな差がありますが,このタワーマンションでは同じ床面積の住戸であっても40階が7,000万円で,2階は3,500万円でした。
ところが,土地の敷地持分や建物固定資産税評価額は単に面積だけを基準にしますので,40階であっても2階であっても敷地持分や床面積が同じだと相続税評価額も同じです。
よって,40階7,000万円,20階5,000万円,2階3,500万円とそれぞれ販売価格は違っても,相続税評価額は全住戸とも同じ1,600万円です。眺望や向き(南向き・北向き)は相続税評価額には反映されません。
どの階層でも良いのですが,例えば父がこのタワーマンションを5,000万円で購入し,暫くして子に贈与します。相続税評価額は1,600万円ですから相続時精算課税を適用しますと贈与税はゼロとなります。
更にしばらくして贈与を受けた子がこれを5,000万円で売却します。
譲渡代金は当然子が受け取ります。受贈物件を譲渡した場合の取得費は,当時購入した者(父)の購入価額を引き継ぎますので,キャピタルゲインは少額で,ゆえに譲渡所得税は少額に抑えられると思います。
子が自己居住用で使用していたのであれば,居住用3,000万円控除まで適用可能です。
但し,売却する時期が早すぎて課税当局から否認された事例もありますので注意が必要です。
(参考:バードレポート571号)