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役員報酬の減額について

2015-05-26(火) 08:14:37

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【役員報酬の基本】

法人税法上,役員に支給する役員報酬には様々な規制があります。

特に同族会社の場合は役員報酬をある程度自由に決定することができますので,その決定を全部認めていたら課税上弊害があるからです。

法人税法上,損金の額に算入される役員報酬は次に掲げる3つに限られています。

定期同額給与 支給時期が原則1ヶ月毎で,その支給額が毎月同額であるもの。金額が改定された場合は事業年度開始から3ヶ月以内の定時株主総会で改定されたものに限る。

事前確定届出給与 誰に,いくら,いつ支給するかを事前に税務署に届出をしたもの。

利益連動給与 上場会社のみ。詳細は割愛します。

 

同族会社の場合,①と②の適用があるのですが,②の届出をしている法人は少数ですので,実務的には①のみに注意することになり,とどのつまり,年に1度の定時株主総会でしか役員報酬を変更することができないというのが原則です。

 

しかしながら,全く例外を認めないのも現実的ではありませんので,次の場合のみ臨時の改定が認められています。

臨時改定事由による改定 役員の職制上の地位の変更,職務内容の重大な変更その他これらに類するやむを得ない事情による改定

業績悪化改定事由による改定 経営状況が著しく悪化したことその他これに類する理由によりされた改定(減額に限る)

 

【経営状況が著しく悪化したことの定義】

ここで注意すべきは,「経営状況が著しく悪化」したことの定義ですが,法人税法上はかなり限定的に解釈されており,一時的な資金繰りの都合や単に業績目標に達しなかったことは,ここでいう経営状況の著しい悪化には該当しません。

 

では,どのような場合が経営状況の著しい悪化というのかといいますと,例えば次のような場合が該当します。

①株主との関係上,業績や財務状況の悪化についての役員としての経営上の責任から役員報酬を減額せざるを得ない場合

②取引銀行との間で行われる借入金返済のリスケ協議において,役員報酬を減額せざるを得ない場合

③業績や財務状況又は資金繰りが悪化したため,取引先等の利害関係者からの信用を維持・確保する必要性から,経営状況の改善を図るための計画が策定され,これに役員報酬の減額が盛り込まれた場合

 

①については,株主が不特定多数であれば問題ありませんが,一般的な同族会社は株主が少数で,且つ,株主と役員が親族関係であることが多く,そのような場合においては,役員報酬を減額せざるを得ない客観的,且つ,特別な事情を具体的に説明するのは難しいと思われます。

また,③についても,わざわざ経営状況が悪化していることを取引先等の利害関係者に積極的に開示することは一般的ではありません。

一方,②については,リスケの条件として役員報酬の減額を求められたということを客観的に証明できれば良いわけですから,比較的対応は容易であるといえます。

 

【安易な減額は厳禁です】

役員報酬の減額が税務調査で否認されても,役員報酬を減額前に戻すだけ(経費が増えるだけ)であるから,税額が増えるわけではない,故に怖くないと解釈している方もいらっしゃるようですが,それは大きな誤りです。

例えば,H23.1.25裁決では,経常利益が前年比で6%減少したことから,代表取締役の役員報酬を決算月の前月に減額したところ,当該減額は業績悪化改定事由に該当しないとして,減額後の金額が定期同額給与と認定されてしまいました。

数字を用いてご説明しますと,月額100万円のままであれば12ヵ月分の1,200万円が経費として計上できるはずだったのが,期中で50万円に減額したところ,この50万円が定期同額給与と認定されてしまい,それを超える部分(50万円×12ヵ月分=600万円)が否認され,課税処分を受けてしまいました(数字は仮の数字です)。

 

このように減額前の役員報酬の一部を否認されるケースもありますので,減額と言えども役員報酬の改定は慎重に対応したいところです。

 

相続税の申告期限までに遺産分割協議が調わなかった場合の不利益

2015-04-24(金) 18:10:21

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相続税の申告と納税は,相続等により取得した財産の額の合計額が,遺産に係る基礎控除額を超えた場合に必要となります。

申告期限は,被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10ヶ月以内です。

よって原則的には,被相続人が亡くなってから10ヶ月以内に,全ての財産を洗い出し,その財産を一つひとつ評価して評価額を算出し,相続人全員で誰が何をもらうかを協議し(これを遺産分割協議といいます),それを基に相続税額を計算して,申告及び納税まで済ませる必要があります。

もし仮に,遺産分割協議が申告期限までに調わなかった場合であっても,申告期限は延長されません。その場合は,一旦,法定相続割合により分割されたと仮定して相続税額を計算し,申告及び納税をすることになります。

 

遺産分割協議が申告期限までに調わなかった場合には,申告期限までに調った場合に比べて,いくつかの弊害があります。

まずは納税資金についてですが,相続税は現金一括納付が原則なのですが,遺産分割協議が調っていないので被相続人の預貯金を下すことができず,相続人は自分の固有の財産から納税資金を工面する必要があります。

相続税には延納や物納という制度がありますが,延納を申請する場合には担保を提供しなければならず,遺産分割協議が調っていない未分割の状態での延納申請は現実的ではありません。

また,未分割財産を物納申請しても物納不適格財産ということで却下されますので,物納も現実的には不可能です。

その結果,申告期限までに遺産分割協議が調わない場合の多くは,無申告及び未納という状態になるケースが非常に多いです。ちなみに納期限から2ヶ月を経過した日以降は,原則として年14.6%の延滞税が課税されます。

 

次に,税額軽減措置についてですが,遺産分割協議が調っていない場合,「小規模宅地等の特例」と「配偶者の税額軽減」という税額軽減措置が適用できません。

「小規模宅地等の特例」とは,被相続人や被相続人の親族が,自分の仕事場として使っていた,又は,住まいとして使っていた土地については,一定の要件の下に評価額を減額してくれる制度で,その減額割合は最高80%です。1億円の土地が2,000万円の評価額になるのですからかなりの税額軽減措置であるといえます。

また,「配偶者の税額軽減」とは,配偶者が取得する財産の価額が1億6,000万円までか,或いは配偶者の法定相続分までであれば,配偶者に相続税を課税しないという制度です。こちらもかなりの税額軽減措置です。

これらの税額軽減措置は,申告期限までに遺産が分割され,適正に申告することが要件となっていますので,未分割の状態では適用できません。

その結果,納税額が大きくなり,しかもそれが未納となりがちですので,延滞税を含めた税負担は多大なものとなります。

 

尚,10ヶ月以内に遺産分割協議が調わず,取り敢えず法定相続割合で申告及び納税を済ました場合であっても,その後において遺産分割協議が調った場合には,それが申告期限から3年以内であれば,「小規模宅地等の特例」と「配偶者の税額軽減」を適用して相続税の計算をやり直すことが可能です。

具体的には,10ヶ月以内に取り敢えずの申告をする際に,「申告期限後3年以内の分割見込書」を相続税の申告書とともに提出しておき,3年以内に遺産分割協議が調って「小規模宅地等の特例」や「配偶者の税額軽減」の適用要件を満たすことが確定した段階で,「更正の請求」をすることになります。

「更正の請求」とは,税金の還付を請求する制度のことで,この場合には,遺産分割協議が確定したことを知った日の翌日から4ヶ月以内に行う必要があります。

 

相続開始から10ヶ月以内に遺産分割協議が調わない場合は,申告期限から3年以内であれば後で取り戻すことができるとはいえ,一旦は多額の相続税の納税が必要となることから,元々納税資金不足であった場合には非常に大きなリスクとなります。

故に,10ヶ月以内に申告できるよう,生前から対策を検討することが賢明と言えます。

結婚・子育て一括贈与

2015-03-30(月) 13:40:17

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今年の税制改正では「結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置」が創設されます。制度の概要は以下の通りです。

 

贈与を受ける人(子や孫・20歳以上50歳未満)の結婚・子育て資金の支払いに充てるために,親や祖父母が金銭等を拠出し,金融機関に信託等をした場合には,子や孫1人につき1,000万円までは贈与税が課税されないという内容で,概ね教育資金一括贈与の非課税特例と同様です。

 

<扶養義務者相互間贈与はそもそも非課税ですが…>

1,000万円贈与しても贈与税が課税されないと聞くととても素晴しい制度だと思う方もいらっしゃるかも知れませんが,実はそうでもありません。

 

相続税法では「扶養義務者相互間において生活費又は教育費に充てるためにした贈与により取得した財産のうち通常必要と認められるもの」は贈与税非課税と規定しています(相法21条の3)。

 

扶養義務者とは,配偶者・直系血族及び兄弟姉妹・3親等内の親族で生計を一にする者をいいますので(民法877),親や祖父母が子や孫の入学金・挙式費用・出産費用等を「都度」負担してあげても,実はもともと贈与税非課税です。わざわざ金融機関と信託契約する必要はないし,税務署や金融機関にこれらの領収書を提示する必要もありません。

 

但し,「都度」負担するのではなく,まだ幼い子供の入学金や結婚費用として合計1,000万円を予め贈与しておく,というような場合は,もともと贈与税非課税とはいえなくなります。

 

よって,今回創設された制度は,「都度」払いであれば贈与税非課税であるものを,「一括」払いにさせるための制度であり,仮に当該制度を活用する場合は,この辺りの違いをきちんと理解しておく必要がありそうです。

 

 

<教育資金一括贈与と結婚・子育て一括贈与の違い>

教育資金一括贈与の非課税特例と結婚・子育て一括贈与の非課税特例は,制度概要は似ておりますが,次表のような違いがあります。

 

教育資金一括贈与 結婚子育て一括贈与
非課税限度額 1人1,500万円 1人1,000万円
拠出期限 平成25年4月1日~平成31年3月31日 平成27年4月1日~平成31年3月31日
受贈者の年齢制限 30歳未満 20歳以上50歳未満
年齢制限前に受贈者が死亡した場合 贈与税課税なし

残額は受贈者の相続財産

贈与税課税なし

残額は受贈者の相続財産

年齢制限前に贈与者が死亡した場合 残額があっても相続税課税なし 残額は相続税の課税対象となる

 

 

<結婚・子育て一括贈与の最大の欠点>

結婚・子育て一括贈与の非課税特例の最大の欠点は,贈与者が死亡した場合に,一括贈与した資金のうちまだ使用していない残額がある場合には,その残額に対して相続税が課税されるということです。

 

これに対し,教育資金一括贈与の非課税特例は,贈与者が死亡した場合に,一括贈与した資金のうちまだ使用していない残額があったとしても相続税の課税はありません。

 

よって,両制度のうち相続対策として活用できそうなのは,教育資金一括贈与のほうであると言えます。

 

<他の贈与特例との併用>

上記以外にも贈与税には特例措置があり,これらとの併用も可能です。

暦年贈与基礎控除(年間110万円)又は相続時精算課税贈与(特別控除2,500万円),直系尊属からの住宅取得等資金非課税贈与特例(最大3,000万円又は1,500万円,重複適用可能)・教育資金一括贈与の特例(最大1,500万円)・結婚子育て一括贈与の特例(最大1,000万円),これらを併用しますと,総計7,000万円以上の贈与が非課税で可能となります。

 

修繕費か資本的支出か

2015-02-26(木) 20:39:08

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 自社使用であっても賃貸用であっても,建物を所有していますと大なり小なり毎年何らかの修繕を行うことがあると思いますが,その修繕に係った費用が支払った時点の一時の費用となるのか,或いは減価償却資産として数年間の費用となるのか,それにより税金の額は大きく変わります。

 上記に関する注目すべき裁決事例が公表されましたので,今回はそれをご紹介します。

<システムキッチンの取替工事費用 H26.04.21裁決>

 不動産貸付業を営むAは,賃貸用マンションの流し台等の取替工事に係る費用約500万円を修繕費として不動産所得の必要経費に算入して申告した。

 後日,税務調査があり,課税庁は,当該費用は減価償却資産の新規取得に該当するため,適正に計算した減価償却費約33万円だけが必要経費となり,残りの約467万円は翌年以降,順次,減価償却費として必要経費に算入することになる,よって,467万円は経費の過大計上となるため修正が必要であり,追徴税額は約150万円になると主張した。※金額は説明上,設定した仮の金額です。

納税者Aの主張の概要

 本件建物は築後17年が経過し,各設備の劣化も目立つようになっており,賃料も当初と比較して下がり,空室も目立つ状況にあった。

 本件修繕工事は,居住用機能を回復させるための工事であり,建物の躯体に影響を与えるものではない。

 また,建物の使用可能期間を延長させることもなければ,その価値を高めるものでもない。更に,修繕後の賃料の引上げも行っていないため,よって,修繕の目的は現状維持することである。

課税庁の主張の概要

 本件修繕工事は,見積書等によれば,既存の資産を解体し,単価の違いはあるものの,新たにシステムキッチン,洗面化粧台及びユニットバス等の資産の取付け並びに既存の資産の解体等に係る費用であると認められる。

 また,Aは,流し台等を取替えないと一世帯の賃貸機能が満たされないため,空室になったところから新品のものへ取替えを行った旨主張しているが,それはつまり本件修繕工事が,通常必要と考えられる修繕費用ではなく,劣化した既存の資産を新品に取替えることによって,建物本体の価値を高めるものであると認められる。

 従って,本件修繕費用は,本件建物に設置された内部造作のための資本的支出に該当し,通常の維持管理のための修繕費には該当しない。

国税不服審判所の判断

 建物に対する修理,改修等のための費用が,修繕費或いは資本的支出として新たな減価償却資産の取得のいずれに該当するかについては,その支出した金額の内容及び支出効果の実質によって判断するのが相当であり,本件修繕工事が本件建物の住宅の居住用機能を回復させる目的があったとしても,本件建物の規模との比較のみによって判断するものではない。

 そして,本件修繕工事の内容は,既存の台所及び浴室を全面的に取壊し,新たなシステムキッチン及びユニットバスを設置し,台所及び浴室を新設したものであり,本件修繕費用は,それらの台所及び浴室を新設したことによって本件建物の価値を高め,又はその耐久性を増すことになると認められ,本件建物に対する資本的支出に該当するから,修繕費とされる通常の維持管理のための費用とは認められない。

本件のポイント

 賃貸用マンションの場合,壁紙や鍵の交換,エアコンやガスコンロ等を単体で交換,修理するような費用は,経年劣化を原状回復するための費用であり,修繕費として支払った時点の一時の費用で良いと思いますが,システムキッチンやユニットバスを交換した場合は,機能も大幅に向上しているでしょうし,経年劣化の回復とか,単なる交換とは呼べず,やはり資本的支出として減価償却資産に該当するという判断が常識的であるように思います。

養子縁組と相続税

2015-01-22(木) 19:43:40

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 いよいよ平成27年1月から,相続税の基礎控除引下げ&税率の引上げとなりました。

 これにより,これまで相続税が課税されてなかった層にも課税されるようになり,大都市の場合,「自宅+多少の金融資産」を相続しただけで,相続税が課税される可能性が高くなります。

 

 そんな中,最近,相続税を減少させるシンプルな方法として注目されているのが「養子縁組」です。

 

 養子縁組には「普通養子」と「特別養子」の2種類の制度があり,通常,相続対策として用いられるのは専ら普通養子です。

 普通養子制度は,20歳以上の養親になろうとする者と,養子になろうとする者の合意のみで行うことができ,また,婚姻と同様に両当事者の合意による離縁も認められています。

 養子縁組をしますと養親の子が増えます。民法上は,養子縁組は何人とでも行えます。血縁上の実子と養子との間に相続や扶養等につき法律上の差異はありません。

 また,よく誤解されがちですが,養子縁組を行っても実の親との親子関係は消滅しませんので,養子縁組により養親の子になっても,実の親の相続人であることに変わりはありません。

 

 養子縁組をしますと,次の4つの観点から相続税の節税に繋がります。

 

 1.基礎控除額の増加

 遺産に係る基礎控除額は,「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算するのですが,養子縁組をすることにより法定相続人が増えるため基礎控除額が増加し,結果として相続税が減少します。

 ただし,基礎控除額を計算する上においては養子の数に制限があり,何人養子がいても,被相続人に実子がある場合には1人,被相続人に実子がない場合には2人までしか法定相続人にカウントされません。

 そうしませんと,養子縁組を利用して理論上は無限に法定相続人の数を増やすことができてしまうからです。

 

 2.法定相続人の増加による累進税の緩和

 相続税は超過累進税率を採用しているため,法定相続人が増えることで1人当たりの課税価格が減少し,全体の累進税率が緩和され,結果として相続税の総額が減少します。

 ただし,相続税を計算する上において,養子の数が制限されるのは基礎控除と同様です。

 

 3.生命保険金・退職手当金の非課税限度額の増加

 生命保険金・退職手当金の非課税限度額は,それぞれ「500万円×法定相続人の数」で計算しますので,法定相続人が増えますと非課税限度額が増えます。

 ただし,相続税を計算する上において,養子の数が制限されるのは基礎控除と同様です。

 

 4.相続一代飛ばしによる相続税負担の軽減

 孫を養子にした場合,その養子に財産を相続させた分だけ相続を一代飛ばすことができます。

 ただし,養子に限らず孫が相続しますと,通常の相続税額の2割増で納税する必要があります(2割加算制度)。

 しかし,2割加算制度の対象になったとしても,上記節税効果がなくなるわけではありませんので,節税効果と2割加算とを比較し,孫にどれくらいの財産を相続させるのがベストであるか充分に検討することが重要です。

 

 実務上の留意点

 孫が複数いる場合には,養子縁組する孫としない孫がもめないように配慮する必要があります。また,養子縁組により法定相続人が増えることを歓迎しない他の法定相続人がいることもありますし,孫を養子にしますと結果として親子で兄弟となりますので,当事者はもちろんのこと関連する方々の理解が必要となります。

 単に相続税対策ということだけではなく,孫が次世代の後継者として予定されている場合には,養子縁組は是非とも活用したい制度であると言えます。