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法人税における海外渡航費の取扱いについて

2016-09-29(木) 09:32:28

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海外渡航費は高額となることが多く,随行者が必要な場合や,観光を伴うこともあり,税務調査においては常に確認されるポイントの一つです。

 

まずは大原則ですが,法人税基本通達(以下,法基通)9-7-6では次のように規定しています。

法人がその役員又は使用人の海外渡航に際して支給する旅費は,その海外渡航が当該法人の業務の遂行上必要なものであり,かつ,当該渡航のため通常必要と認められる部分の金額に限り,旅費としての法人の経理を認める。したがって,法人の業務の遂行上必要とは認められない海外渡航の旅費の額はもちろん,法人の業務の遂行上必要と認められる海外渡航であってもその旅費の額のうち通常必要と認められる金額を超える部分の金額については,原則として,当該役員又は使用人に対する給与とする。

 

続いて法基通9-7-7が業務の遂行上必要な海外渡航の判定について次のように規定しています。

法人の役員又は使用人の海外渡航が法人の業務の遂行上必要なものであるかどうかは,その旅行の目的,旅行先,旅行経路,旅行期間等を総合勘案して実質的に判定するものとするが,次に掲げる旅行は,原則として法人の業務の遂行上必要な海外渡航に該当しないものとする。

  • 観光渡航の許可を得て行う旅行
  • 旅行あっせんを行う者等が行う団体旅行に応募してする旅行
  • 同業者団体その他これに準ずる団体が主催して行う団体旅行で主として観光目的と認められるもの

 

一般的に海外渡航費が税務上問題となるのは役員が海外出張した場合です。家族旅行は論外として,同業者や取引先等と海外視察と称して海外旅行をし,その費用を法人の経費として計上したのを否認されるケースが多いです。

役員の場合は海外渡航費が役員給与と認定されますと損金不算入となる上に源泉所得税の徴収漏れという問題も生じます。

 

次に,同伴者の旅費については法基通9-7-8が規定しており,要約しますと次のような取扱いになります。

法人の役員が親族又は社外の者を同伴し,その同伴者の旅費を法人が負担したときは,その旅費はその役員に対する給与とする。

ただし,その同伴が例えば次のように,明らかにその海外渡航の目的を達成するために必要な同伴と認められるときは,この限りでない。

  • その役員が常時補佐を必要とする身体障害者であるため補佐人を同伴する場合
  • 国際会議への出席等のために配偶者を同伴する必要がある場合
  • その旅行の目的を遂行するため外国語に堪能な者又は高度の専門的知識を有する者を必要とするような場合に,適任者が法人内にいないためその役員の親族又は臨時に委嘱した者を同伴するとき

 

中小企業で配偶者を海外に同伴する最も多いケースは,取引先役員等の海外挙式に夫婦で招かれた場合です。国際会議ではありませんが海外挙式に夫婦で招かれたのだからその渡航費用は全額法人負担としがちですが,税務調査で認められない場合も多々あります。

個別要素が強い事案ですので一概に判断できませんが,税務調査で否認されないために配偶者同伴の必要性を説明できるようにしておいた方が良さそうです。

 

海外渡航費については課税当局とのトラブルを避けるためにも,海外出張旅費規程を定めて,役職ごとに出張手当,支給する宿泊費,移動に利用できる交通機関等を明確にしておきますと一定の効果があります。

また,出張報告書を作成し,出張期間・渡航先・出張の目的・現地でのスケジュール・訪問先・面会者・渡航費用の明細・写真などを詳細に記録しておきますと,課税当局とのトラブルを回避できる場合が多いです。

法人税法における寄附金の取扱いについて

2016-09-02(金) 08:53:06

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法人税法における寄附金とは,その名義のいかんを問わず,金銭その他の資産又は経済的利益の贈与又は無償の供与のことをいいます。

よって,それは通常の意味における寄附金よりもはるかに広い概念です。

注意すべき点は,金銭でなされた寄附でなくても寄附金と認定されるところです。

 

法人が支出した寄附金は,その全てが経費となるわけではありません。

一般的に,寄附という行為は見返りを期待しないでなされるものですので,法人の収益を生み出すために必要な経費であるかどうかは極めて難しい問題だからです。

そこで,法人税法では,法人の種類等に応じ,その法人の資本金等の額及び所得金額を基礎として一定の限度額を設け,寄附金の経費計上を制限しています。

 

ただし,法人が金銭その他の資産又は経済的利益の贈与又は無償の供与をした場合であっても,広告宣伝及び見本品の費用その他これらに類する費用並びに交際費・接待費及び福利厚生費とされるものは,寄附金から除かれます。

 

また,次のような子会社等に対する支援についても寄附金の額に含まれません。

  • 法人が,その子会社の解散等に伴い債務の引受けその他の損失負担をした場合において,その損失負担をしなければ今後より大きな損失を被ることになることが社会通念上明らかであり,損失負担することに相当の理由がある場合のその損失負担により供与した経済的利益の額
  • 法人が,業績不振の子会社等の倒産を防止するためにやむを得ず行った子会社等への金銭の無償若しくは通常の利率よりも低い利率での貸付け又は債権放棄をした場合の経済的利益の額

 

【寄附金について税務上問題となりやすい箇所】

税務調査においては,しばしば課税当局から寄附金と認定されて課税されるケースが見受けられますが,税務上問題となりやすいケースは以下の通りです。

 

<関連会社等に対する債権放棄>

経営不振に陥った子会社を支援するために行った損失負担等が寄附金に該当しないと前述しましたが,子会社支援なら全て寄附金に該当しないわけではありません。

あくまでもその支援が必要最小限度の範囲内であって,損失負担等を行う相当の理由があり,真にやむを得ない場合に限られます。これに関する立証責任も納税者側に求められますので,課税当局とトラブルにならない客観的な証拠書類を残す必要があります。

 

<関係会社に対する売上値引き等>

販売した商品に欠陥があった,原材料の予定価格が変更になった等を理由として,売上値引き等が行われる場合があります。これらは個々の事情を取引金額に反映させる行為ですから通常は寄附金に該当しません。

ところが関係会社間においては,利益調整を目的として安易に取引金額を変更するケースが見受けられます(今期は子会社の利益が出過ぎたから親会社から高く仕入れたことにしよう等)。

第三者間では簡単でない取引金額の変更も,関係会社間では容易ですので,このような安易な取引金額の変更は寄附金と認定されるケースがありますので要注意です。

 

<資産等の低額譲渡等>

不動産の低額譲渡・高額譲受は,関係会社間で起きがちな取引行動です。

低額譲渡・高額譲受とみなされた場合,合理的な説明ができないと,時価と譲渡対価との差額について,実質的な贈与(無償の供与)として寄附金と認定されます。

何をもって時価とするかは非常に難しい問題ですが,取引金額を設定する場合には,「不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額」となるよう十分に注意する必要があります。

 

法人税法における寄附金の範囲は,通常の寄附という概念よりも遥かに広いですから,十分注意しましょう。

賃貸不動産経営による資産形成

2016-07-25(月) 09:43:07

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一般的に老後資金(夫婦二人世帯で夫の定年後に必要である資金)は約9千万円程度必要だと言われておりますが,このうち約6千万円は年金受給でカバーしますので,自己で準備すべき金額は約3千万円となります。

高額な定年退職金が支給される会社に勤務している場合は良いですが,そうでない場合は定年時までに約3千万円を何とかして自ら準備しないといけません。

 

その場合に真っ先に頭に浮かぶのは当然貯蓄です。

低金利とはいえ,元本が保証された定期預金等は貯蓄の代表格です。

仮に年利1%で毎年120万円を貯蓄し続けた場合,3千万円に達するまでには約23年かかります。

同じ金利1%で毎年150万円貯蓄し続けた場合で約18年,200万円貯蓄し続けた場合で約14年かかります。

 

では,発想を変えて,賃貸不動産を購入し賃貸不動産経営をしながら貯蓄していった場合を見てみましょう。

話をわかりやすくするために,頭金無しのフルローンでネット利回り5%の賃貸不動産を3千万円で購入したとします。

30年返済で借入金利は年利2.5%とし,貯蓄の場合と同様に毎年120万円を繰上げ返済したことにします。

すると,約14年で3千万円の借入金を完済することができます。

同じ3千万円という資産を形成するのに,120万円貯蓄し続けた場合と比べて,約9年も早く達成できます。

これは,入居者から受け取る家賃と自分自身の貯蓄とを並行して行ったため,これだけの差がついたのです。

 

しかし,実際に賃貸不動産経営をするとなりますと,空室,家賃滞納,入居者トラブルなど,様々なリスクがあるのも事実です。

よって,これらのリスクを回避しながら賃貸不動産経営を行っていければ良いわけですが,それにはいくつか注意すべきポイントがあります。

 

<空室リスクを回避するために>

いくつかあるリスクの中で最も大きなリスクは空室リスクですが,これは都内23区で駅から近い物件を選ぶことで,ある程度回避できます。

東京都の人口予測(※)によれば,都の総人口のピークは平成32年となっており,その後減少に転じますが,平成47年でも1278万人と予測されており,これは平成17年の1258万人よりも多い数字です。

平成17年当時,空室ばかりで大変苦労したという事態にはなっておりませんので,少なくともここから20年は人口減少によるリスクは都内の物件を選ぶことで回避することができそうです。

(※)http://www.toukei.metro.tokyo.jp/index.htm

 

<家賃滞納リスクを回避するために>

これは賃貸借契約を締結する段階で相手の属性を精査するに尽きますが,それ以外にも,保証人を必ずつけてもらうとか保証会社を使うなどの方法があります。

また,3万円よりも7万円の家賃のほうが,10万円よりも15万円の家賃のほうが,安定した職業に就いている方が入居してくれる可能性が高いといえるので,あまり家賃設定が低すぎる物件を避けることで,家賃滞納リスクも回避することができます。

 

<入居者トラブルを回避するために>

上記と同様に契約段階で相手の属性を精査することは当然として,管理会社と密に連絡を取り,常に現状を把握しておくことが重要です。

隣人との関係,ゴミの出し方,ペット飼育,不法行為の有無などを常に管理会社経由でも良いので把握しておくと,トラブル発生の初期段階ですぐに対処することができます。

入居者対応は管理会社に依存することが多いため,適正な管理会社を選別することが入居者トラブルの回避に繋がります。

 

完全にリスクを排除することは不可能かも知れませんが,上記のように注意すべき点さえ心得ていれば,それほど怯える必要も無いように思います。

歴史的低金利の今は,不動産投資を始めるチャンスかも知れません。

 

不動産賃貸に関するご相談等がございましたらお気軽にご連絡下さい。

外国人への各種支払いは源泉所得税に要注意

2016-06-08(水) 17:52:51

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外国人とりわけ中国人が日本で爆買いを始めて久しく,その対象は多岐にわたりますが,不動産も例外ではありません。

2020年東京オリンピックまでは値上がりが続くと読む向きもあり,北京の不動産会社が毎月数回,不動産投資ツアー団を日本に送り込んでいるという新聞報道を頻繁に目にするようになりました。

 

さて,外国人が不動産を購入した場合,将来的にはどこかで手放す(売却する)のだと思いますが,所有している期間は賃貸に出すのが一般的です。そして,その賃借人のほとんどは当然日本人或いは日本の法人ということになりますが,その家賃を支払う際には源泉所得税に注意する必要があります。

 

そもそも源泉徴収制度とはどういった制度かといいますと,給与や報酬等を支払う際に,これらを支払う者が予めその給与や報酬等から法令により定められた一定の所得税を源泉徴収し,国に納付する制度です。

給与や報酬等を受け取った側ではなく,支払った側が源泉所得税を納付するところが特徴であり,これは法令で定められた義務です。

うっかり源泉徴収を怠った場合の言い分として,受け取った側が確定申告すれば国にとって損も得も無いという主張をする人がいますが,この主張は認められません。

源泉徴収義務を怠りますと,支払者側に不納付加算税や延滞税が課税されることもあります。

 

そして,この源泉徴収義務は外国人(=非居住者とここでは定義します)や外国法人に対する支払いについても設けられていて,不動産賃貸人が外国人或いは外国法人の場合,原則として,支払う家賃の20.42%の所得税を源泉徴収し,家賃を支払う側が国に納付しなければなりません。

 

<事例1>

A社(日本の内国法人)は港区内の事務所を賃借することになり,賃貸人であるB社(外国法人)に家賃100万円を毎月支払っていたところ,1年後に課税当局から源泉所得税の徴収漏れを指摘されました。

100万円×12ヶ月×20.42%=約245万円の源泉所得税の納付漏れです。

B社が日本国に適正に申告すれば国にとって課税漏れは生じませんが,それとは関係なく国はA社に対し源泉徴収義務の不履行を理由に課税できます。

A社はB社に約245万円の返還を要求すると思いますが,相手は外国法人で連絡もうまく取れず,結果として返還してもらえないということも考えられます。

家賃の場合は次月以降の家賃で調整するということが相手方次第で可能ですが,そうはいかないのが不動産売買の場合です。

 

爆買いで外国人に買われた不動産も,いずれは日本人或いは日本企業が買い戻すことが想定されますが,その際にも源泉所得税には注意が必要です。

すなわち,外国人や外国法人から不動産を購入した場合,購入した者がその譲渡対価の10.21%の所得税を源泉徴収し,国に納付しなければなりません。

 

<事例2>

C社(日本の内国法人)は渋谷区内のビルを購入することになり,所有者であるD(個人・非居住者)に譲渡対価5億円を支払ったところ,1年後に課税当局から源泉所得税の徴収漏れを指摘されました。

5億円×10.21%=約5,100万円の源泉所得税の徴収漏れです。

事例1と同様に,Dが日本国に適正に申告すれば国にとって課税漏れは生じませんが,それとは関係なく国はC社に対し源泉徴収義務の不履行を理由に課税できます。

C社はDに約5,100万円の返還請求をすると思いますが,相手は外国に居住していて,更に引越でもされたら所在をつきとめるのは事実上不可能です。

 

上記のようにならないよう外国人や外国法人と取引する際には,源泉徴収義務に気を付けたいところです。

 

 

※上記では便宜上,外国人=非居住者と定義しましたが,正確には以下の通りです。

 

永住者以外の居住者→国内に住所を有する個人又は現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人のうち,非永住者以外の者

 

非永住者→居住者のうち,日本の国籍を有しておらず,且つ,過去10年以内において国内に住所又は居所を有していた期間の合計が5年以下である個人

 

非居住者→居住者以外の個人

 

※日本国籍を有していても非居住者に該当する人や,外国籍であっても非居住者に該当しない人などもいるため,国籍や住民票の有無だけで非居住者か否かを判断することはできません。

 

相続した空き家を譲渡した場合の課税の特例

2016-05-17(火) 08:48:33

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親が居住していた不動産を相続したものの,子は既に自宅を所有している場合などは,相続した不動産が長年空き家になっていることは珍しくありません。

適切な管理の行われていない空き家は,周辺環境に悪影響を及ぼすことも多く,こうした事例を抑制するために,一定の空き家を譲渡した場合の課税の特例が設けられました。

 

<制度の概要>

相続により生じた空き家で,一定の要件を充足するものを売却した場合,その譲渡所得について,3,000万円の特別控除が適用されます。

 

<適用要件>

①家屋について

・相続開始直前において被相続人の居住用であり,且つ,被相続人以外に居住者がいなかったこと。

・S56.05.31以前に建築された家屋であること(但しマンション等の区分所有家屋は除く)。

 

②土地等について

・相続開始直前において被相続人の居住用家屋の敷地の用に供されていた土地等であること。

 

③相続開始から譲渡まで空き家であったこと

・家屋とその敷地の譲渡の場合

a.相続開始から譲渡まで事業の用,貸付けの用,居住の用に供されたことがないこと。

b.譲渡時において地震に対する安全性に係る規定又は基準に適合するものであること。

 

・家屋を除却して敷地のみの譲渡の場合

a.相続開始から家屋除却まで事業の用,貸付けの用,居住の用に供されたことがないこと。

b.敷地について相続開始から譲渡まで事業の用,貸付けの用,居住の用に供されたことがないこと。

 

④その他

・譲渡期限

相続時から相続開始があった日以後3年を経過する日の属する年の12月31日まで(例:H25.3.10に相続発生した空き家の場合→H28年12月31日までに譲渡すれば特例適用可)。

 

・譲渡対価

1億円を超えるものを除く。

 

・特例の適用期限

H28.4.1からH31.12.31までの譲渡。

 

<申告手続き>

この特例は,確定申告書に,その譲渡した家屋や土地等が上記適用要件を満たしたことを地方公共団体等の長等が確認した旨を証する書類その他の書類を添付した場合に限り適用されます。

 

<他の特例との適用関係>

①相続財産に係る譲渡所得の課税の特例(相続税額の取得費加算)との選択適用

②居住用財産の買換え等の特例との重複適用その他所要の措置が講じられます。