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法人の青色申告
所得税の申告の種類に白色申告と青色申告があることは広く知られているところですが,法人税にも白色申告と青色申告があります。
法人税の確定申告はその複雑さゆえに税理士に依頼するケースがほとんどでしょうから,法人の代表者が白色とか青色とか意識する機会はほぼ無いと思いますが,今回は改めて法人税における白色申告と青色申告の違いについて確認してみます。
所得税と同様に,法人税も青色で申告したい場合には事前に申請が必要です。
申請をしない法人は白色申告となりますが,株式会社や合同会社の場合はほぼ100%青色申告の申請をします。
そうしないと不利益を被るからです。
法律上は申請となっていますが,実質的には届出です。
過去に青色申告の取消処分を受けていたりしない限り,承認されないということはありません。
青色申告の特典のうち代表的なものは以下の通りです。
逆に言うと,白色申告の場合はこれらの適用が全てありません。
<欠損金の翌期移行への繰越し>
青色申告書を提出した事業年度において生じた欠損金額は翌期以降10年間繰越すことができます。
例えば,第1期100万円の赤字,第2期30万円の黒字,第3期80万円の黒字だった場合,第1期法人税は当然0円,第2期は30万円の黒字ですが第1期の赤字が繰越されますので第2期も法人税0円,第3期は80万円の黒字ですが第1期の赤字がまだ70万円(100万円-30万円)繰越されますので,80万円-70万円=10万円となり,10万円に対してだけ法人税が課されます(※1)。
一方,白色申告はこの繰越しができません。
<帳簿書類の調査に基づく更正>
税務署長は青色申告書を提出した法人に対して更正処分(税金を追徴課税すること)をする場合,その法人の帳簿書類を調査し,その帳簿書類に誤りがあると認められる場合に限り,更正処分をすることができます。
一方,白色申告の場合は帳簿書類を調査することなく,税務署の判断で推計により計算し,課税することができます。
<減価償却資産に関する特例>
建物,機械,車両及び備品などの減価償却資産のうち取得価額10万円未満のものは購入した時に一時の損金に算入できますが,それ以外のものは一時の損金とすることはできず,耐用年数に応じて減価償却するのが原則です(※2)。
しかし,青色申告には次の特例があります。
中小企業者等で青色申告法人のうち常時使用する従業員の数が1,000人以下の法人については,取得価額30万円未満のもの(少額減価償却資産)は購入した時に一時の損金に算入できます。
この場合の損金算入限度額はその事業年度における少額減価償却資産の合計額300万円までです。
<給与支給額が増加した場合の特別控除>
青色申告法人が従業員に対する給与や賞与を前事業年度よりも増額した場合には,一定の要件のもと,法人税額から特別控除額が控除されます。
青色申告制度は納税者に一定の帳簿書類を備え付けさせて,その見返りとして各種特典を付与する制度ですが,このような制度が設けられた背景には,戦後,当時の我が国には事業者の間に日々の取引を記帳するという慣行が無く,そのため過少申告が続出し,これに対する大量の更正処分と,それに対する不服申立て,減額の更正,再び行われる不十分な申告という悪循環に陥ったという経緯があるようです。
それはともかくとして,上記のような特典を享受し得る青色申告が取り消されることのないよう,日々適正な会計帳簿作成を志しましょう。
※1 資本金1億円超の一定の大法人は,所得金額の50%に相当する金額がその事業年度において控除できる限度となります。
※2 10万円以上20万円未満のものは36ヶ月で期間按分とすることもできます。
個人事業主が親族に支払う対価の取扱い
現在,所得税の確定申告期間真っ只中ですが,今回は所得税特有の取扱いの一つである親族への対価の取扱いについてご説明します。
まず,所得税法における原則ですが,不動産賃貸業や個人で事業をしている人(以下ここでは「個人事業主」といいます)が,生計を一にする配偶者その他の親族に給料,家賃,借入金の利子などを支払っても,その支払った金額を必要経費に算入することはできません。
支払った側が必要経費に算入できないのですから,受け取った側も収入とはみなされません。
この場合において,「生計を一にする」とは有無相助けて日常生活の資を共通にしていることをいい,同居していない場合においても,常に生活費,学資金,療養費等を支出して扶養しているときは生計を一にしていると判断されます。
なお,同一家屋に起居していても,互いに独立し,日常生活の資を共通にしていない親族は生計を一にしていないと判断されますが,そういったケースは稀で,同居していれば通常は生計を一にしていると考えます。
次に,その生計を一にする配偶者その他の親族が,その個人事業主が営む事業に関連する経費を支出した場合には,それらの金額はその個人事業主の必要経費に算入されます。
例えば,同居している親が所有している不動産を息子が無償で借りて,そこで事業をしている場合,その親が支払った固定資産税は息子の必要経費になります。
このように,原則としては生計一親族に支払った給与等は必要経費に算入されないのですが,個人事業主の事業を親族が手伝っているにもかかわらず全く何の考慮もされないのは理不尽だということで,次の二つの取扱いが用意されています。
①青色事業専従者給与
その個人事業主が青色申告者で,その個人事業主の事業に専従する生計一親族(15歳未満の者を除く)に支払った給与がその労務の対価として相当であると認められ,予め届け出た範囲内であれば,その個人事業主の必要経費に算入されます。
この場合における専従とは,原則として,その年を通じて6月を超える期間,その個人事業主の事業に専ら従事している必要があります。
また,高校や大学へ通学している場合には,一般的には専従しているとは認められません(夜間校を除く)。他に職業がある場合も同様です。
②事業専従者控除
その個人事業主が白色申告者の場合には,事業専従者一人につき50万円,配偶者の場合には86万円が,その個人事業主の必要経費に算入されます。
事業専従者に給与を支払っている場合には,その給与は必要経費になりませんが,この事業専従者控除額が必要経費になります。
これらの取扱いは,個人事業主の所得を家族に分散することで税負担の軽減を図ることを防止するために設けられたものですが,時代とともに現在の経済実態にそぐわなくなってきている部分もあり,一定の改正が必要だと言われています。
そのきっかけとなったのが弁護士夫婦事件で,この事件では,弁護士である夫が,別で事業を行う弁護士である妻に業務を依頼して弁護士報酬を支払ったところ,生計一親族に対する対価の支払いであるとして課税庁に否認され,最高裁まで争ったものの納税者が敗訴しました(最高裁H16.11.2判決,訟月51巻10号2615頁)。
また,別の事件では,弁護士である夫が,税理士である妻に税理士報酬を支払ったところ,やはり生計一親族に対する対価の支払いであるとして課税庁に否認され,最高裁まで争ったものの,こちらも納税者が敗訴しました(最高裁H17.7.5判決,税資255号順号10070)。
個人的には,その支払先が生計一親族であっても,別個独立した事業を営んでいる場合には,必要経費算入を認めても良いように思います。
事業承継時に気を付けたい役員退職金の支給について
これまで第一線でバリバリ頑張ってきた社長も気付けば65歳を過ぎ,事業承継を検討すべき60歳はとうに過ぎてしまいました。
早く息子などの後継者に会社経営を任せ,自分は役員退職金をもらって余生をゆっくり過ごしたい,そう考える社長は多いですが,なかなか事業承継が進まないというのは我が国が抱えた深刻な問題です。
半ば強引に事業承継を進めたものの,やはり会社が心配でたまらず,ちょくちょく会社に顔を出し,後継者もまた,重要な経営判断を先代に仰いでしまう,こんな光景が一般的ではないでしょうか。
ところがこの一般的な光景は,法人税法における役員退職金という観点からは非常に危険であると言わざるを得ません。
以下,そのご説明です。
役員が退任した場合に支給される役員退職金は,原則としては法人税の計算上損金の額に算入されます(費用になるということ)。
ところが,上記のように会社が心配でたまらない社長が,事業承継後も毎日出勤している,頻繁に後継者に助言や支援をしている,主要取引先や金融機関対応をしている,ようですと,実質的にはまだ退職したとは言えないのではないか,役員退職金を損金の額に算入して(会社の費用として)法人税を計算したが,本来は損金の額に算入できなかったのではないか,という課税上の問題が生じてしまいます。
確かに,法人税法基本通達9-2-32では,常勤役員が非常勤役員になった場合や,取締役が監査役になった場合などに支給する役員退職金につき,実質的に退職と同様の事情にあるときは,一定の要件のもとその損金算入を認めています。ちなみにその要件とは以下の3つです。
- 常勤役員が非常勤役員になったこと。ただし,代表権を有する者及び代表権は有しないが実質的にその法人の経営上主要な地位にある者を除く。
- 取締役が監査役になったこと。ただし,監査役でありながら実質的にその法人の経営上主要な地位にある者などを除く。
- 役員の給与が激減(おおむね50%以上の減少)したこと。ただし,その変更後においてもその法人の経営上主要な地位にある者を除く。
※いずれの場合も役員退職金の未払金経理は認められません。
しかし,これらの要件を形式的に充足すれば良いかというと,そんな単純な問題ではありません。
代表権を息子に譲った,週に3回しか出社していない,役員報酬も半分以下にした,ということであっても,課税上は常に「実態はどうなのか」というところで判断されます。
実態を判断するポイントとしては,会社内の稟議に関する実質的な決裁権限を有しているか,代表者が交代したことを対外的に明らかにしているか,後継者が代表者としての業務を行うだけの実績と力量を有しているか,などが挙げられます。
中小企業における事業承継に際しては,後継者である息子などを代表取締役に就任させ,先代は役員退職金の支給を受けつつ,会長や顧問,相談役といった名称を付して役員に残る事例が往々にしてありますが,上述した通り課税上は「実態」を問われますので,十分注意する必要があります。
無用なトラブルを避けるためには,できるだけ完全退職して,役員退職金は未払計上ではなく支給してしまうのが一番良いと思われます。
参考:月刊税理2017年1月号 P166(ぎょうせい)
生命保険を活用した相続税対策(基本)
相続税対策として生命保険を活用するということを耳にしたことがあると思いますが,具体的にどういうことなのか,代表的な事例を二つご紹介します。
<生命保険金の非課税枠の活用>
被相続人の死亡によって取得した生命保険金や損害保険金で被相続人が保険料を負担していたものは相続税の課税対象となりますが,この死亡保険金のうち受取人が相続人(相続を放棄した人・相続権を失った人は除く)であるものは「500万円×法定相続人の数」まで相続税が課税されません。
父・母・子供2人の4人家族で父が亡くなった場合の法定相続人は3人(母と子供2人)ですので,この場合は500万円×3人=1,500万円まで生命保険金は相続税非課税となります。
この4人家族の主な財産が自宅と銀行預金2,000万円としますと,このまま何もせず父が無くなると自宅も銀行預金2,000万円も相続税の課税対象となります。
一方,銀行預金2,000万円のうち1,500万円を保険料一時払いの生命保険に事前に加入していた場合,保険金として受け取った1,500万円は相続税非課税となりますので,相続税の課税対象は自宅と銀行預金500万円だけとなります。
既に加入している生命保険契約を確認し,相続税の非課税枠を使い切っていない場合には,銀行預金の一部を生命保険に振り分けると相続税の節税になります。
<現金贈与して生命保険に加入する保険料贈与プラン>
まずは生前贈与のお話から。生前贈与には贈与税が非課税になる特例がいくつか用意されていますが,住宅取得用だったり教育資金だったり使途が特定される特例がほとんどです。
よって,一番使い勝手がいいのは年間贈与金額110万円までは贈与税非課税という通常の暦年贈与です。非課税枠は小さいですが使途が特定されず,他の特例と違って毎年使えるところが長所です。
例えば,先の4人家族の場合,父から母と子供2人に毎年120万円ずつ現金贈与したとします。その場合の贈与税の計算は以下の通りです。
(120万円-基礎控除110万円)×贈与税率10%=1万円
1万円×3人=3万円
この贈与を毎年実行すれば,5年間で1,800万円(120万円×3人×5年)の現金を贈与税15万円(1万円×3人×5年)で移転できます。10年間実行しますと3,600万円の現金贈与に対し贈与税は30万円です。
このように細く長く活用することで効果を発揮する通常の暦年贈与ですが,現金を受け取った子供が浪費しないか心配だという意見があります。
そこで登場するのが生命保険です。贈与により受け取った現金を原資とし,子供が契約者・父親が被保険者・子供が保険金受取人となる生命保険に加入します。
将来的に父が亡くなった際には子供が生命保険金を受け取ります。受け取った生命保険金は相続税ではなく所得税の課税対象となりますが,それまでに支払ってきた保険料は控除できますし,所得税の課税対象といっても一時所得という分類になり課税対象は1/2に軽減されますのでかなり有利です。
受け取った保険金の使途は自由ですから相続税の納税に充当したり代償交付金として使用したりできます。
このように,生前贈与と生命保険を組み合わせた「保険料贈与プラン」は,シンプルでわかりやすく,且つ,実行にあまり手間がかからないが確実に効果があるという点で人気があり,多くの方が実行している相続税対策です。
尚,現金贈与を実行する場合には,父親の口座から子供の口座に振り込みの方法により行うこと,贈与契約書を毎年作成し保管すること,基礎控除を超える金額を贈与し毎年贈与税の申告を行うこと,通帳・印鑑・カード等は子供が保管すること(未成年のうちは親でも可)等の注意点があります。
ちなみに,贈与した現金を子供名義の預金口座に入金したものの,管理は親が行っていて親が自由に引き出せるような場合は贈与そのものが否認されますので要注意です。
同族会社が支給した死亡退職金の課税関係
今回は同族会社が支給した死亡退職金の課税関係をまとめました。
<死亡退職金を受領した相続人等の課税関係>
被相続人に支給されるべきであった退職手当金等で被相続人の死亡後3年以内に支給が確定したもの(以下「死亡退職金」という)は相続税の課税対象となります。これらはその支給を受けた者が相続により取得したものとみなされるため,所得税は課税されません。
一般的に,その支給を受けた者とは,退職給与規程等に定めがある場合にはその者,定めがない場合又は被相続人が退職給与規程の定めを受けない者である場合には死亡退職金を現実に取得した者をいいます。
死亡退職金には相続税の非課税枠が設けられていて,「500万円×法定相続人の数」まで非課税です。
この場合の法定相続人の数は,養子につき,被相続人に実子がある場合又は実子が無く養子の数が1人の場合は1人,実子が無く養子の数が2人以上の場合は2人で,相続の放棄があった場合はその放棄が無かったものとした場合の数です。
ちなみに,被相続人に支給されるべきであった退職手当等で被相続人の死亡後3年以内に支給が確定しないものについては,その確定した時において相続人等の所得税の課税対象(一時所得)となります。
<死亡退職金を支給した同族会社の課税関係>
①損金算入時期
退職した役員に対する退職給与の損金算入時期は,株主総会の決議等によりその額が具体的に確定した日の属する事業年度とするのが原則です。
しかし,例外的に,法人がその退職給与を支払った日の属する事業年度において損金経理している場合には,これも認められます。
②生命保険金との関係
同族会社においては,役員退職金の支給に備えて生命保険に加入していることが多いですが,保険事故発生(相続開始)と役員退職金の支給時期が2事業年度にまたがる場合には注意が必要です。
例えば,事業年度終了直前に役員が急逝し死亡保険金をその事業年度中に受け取った場合において,役員退職金を翌事業年度に支給したとすると,役員退職金の損金算入時期は原則例外ともに翌事業年度となるため,死亡保険金に対する課税が先行されることとなります。
このような場合には,死亡保険金の収益計上時期は保険会社から支払通知書が発せられた日の属する事業年度であることから,保険会社に対する死亡保険金の支払請求手続を若干遅らせる等して,死亡保険金の受領と役員退職金の支給を同じ事業年度となるようにするなどの工夫が求められます。
③分割払いをした役員退職金の損金算入時期
役員退職金の損金算入時期は,原則として株主総会の決議等によってその額が具体的に確定した日の属する事業年度とされていますので,資金繰りの関係から事業年度終了の日までに支給せず,分割払いとしたものであっても,未払金に計上して損金算入することは可能です。
ただし,余りに長い期間での分割払いの場合は,実質的に退職一時金ではなく退職年金と取り扱われる恐れがあるので要注意です。
退職年金の場合,その損金算入時期は当該年金を支給すべき時となり,年金の総額を未払金等に計上して一時の損金の額に算入することはできません。
また,退職一時金と退職年金とでは,相続税の課税対象となる金額が異なります。