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家族信託(≒民事信託)の概要
2019年6月18日,政府は認知症施策推進大綱を閣議決定しました。
もはや認知症はだれもがなりうるものであり,多くの人にとって身近なものとなっていることは間違いありません。2025年には最大730万人に達するという九州大学の推計もあります。
今回は,ここ数年じわじわと普及してきた認知症対策として有効な「家族信託」の概要をご説明します。
認知症とは判断能力が低下し,日常生活に支障をきたす状態のことをいいますが,認知症と診断されますと,例えば次のようなことができなくなります。
・所有している不動産を売却すること。
・不動産を購入すること。
・銀行からお金を借りること。
・銀行口座からまとまったお金を引き出すこと。
つまり,相続対策はほぼできなくなります。
判断能力が低下した人を支援する制度として,2000年に施行された成年後見制度がありますが,成年後見制度(任意後見含む)は次のようなデメリットがあり,財産管理という観点からはあまりお勧めできません。
・裁判所が後見人を選任するため,6割~7割の確率で第三者の後見人(弁護士や司法書士等)がつく。
・全く見ず知らずの人が財産を管理することになり,しかも報酬が発生する(最低でも月額2万円前後)。
・裁判所の監督下で財産管理が行われるため,不動産の売却や購入が事実上できなくなる。
つまり,こちらも相続対策がほぼできなくなります。
そこで,最近注目されているのが家族信託です。
家族信託であれば,裁判所が関与することなく,信託契約の内容に従い受託者の判断で制約なく財産管理を行うことができます。
信託といいますととても難しいことのように聞こえるかもしれませんが,実務で行われる家族信託は次のようにとてもシンプルです。
登場人物は2人だけ
・委託者=財産の所有者=父親
・受託者=財産を託される人=息子
・受益者=利益を受け取る人=父親
ものすごく簡単に説明しますと,家族信託とは,父親が息子に自宅や貸アパートの管理,運用及び処分を任せて(委託し),そこから生じる収益は父親が受け取る,ということを,信託契約という形式にすることです。
具体例
貸アパートを信託財産とする場合,まずは父親と息子で信託契約を締結します(信託契約書を作成します)。
その信託契約を根拠に,父親の貸アパートの名義が息子に変わります。
ただし,名義は変わりますが実質的所有者は父親のままです。
貸アパートの管理,運用及び処分の権限だけ息子に移行します。
形式的な所有者は息子となりますが,実質的な所有者は父親のままなので,それが第三者にわかるように登記簿謄本に記載されます。
信託契約締結後の家賃は受託者である息子が受け取ります。
このとき,自分の預金と混同しないように信託専用の口座を設けて分別管理をします。
貸アパートに関する必要な支払いはその信託専用口座から行います。
貸アパートの実質的所有者は父親のままですから,受け取った家賃は父親のものです。
よって,家賃収入に関する所得税の確定申告も父親の名によって行います。
息子に手数料を支払いたければ信託契約で定めることができますし,信託契約の終了をいつにするかも自由に定めることができます。
受託者である息子は,管理,運用及び処分する権限を与えられているので,貸アパートを建て直したり,信託契約の内容によっては貸アパートを取壊して土地を譲渡したりすることもできます。
この状態で,仮に父親の判断能力が低下し認知症と診断された場合であっても,その後の貸アパートの管理,運用及び処分は息子が行うことができます。
このように,家族信託であれば,本人が認知症と診断された場合であっても,その後の財産管理を予め自分が指定した人に委ねることができるので,相続対策を行うことも可能です。
また,家族信託は色々と応用することが可能で,例えば,遺言書では自分の遺産分割しか指定できないところ家族信託であればその次の代以降まで指定できるとか,工夫次第で様々な財産管理や遺産の分配が行えます。
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マンション管理組合の課税関係
マンションの管理組合は区分所有法第3条の規定により設立される組織です。
登記して法人とすることもできますが,一般的には登記せずに,いわゆる「権利能力なき社団」として活動します。
この権利能力なき社団は法人税法では「人格のない社団等」に該当し,法人とみなされて法人税の納税義務を有します。
ただし,株式会社等の普通法人とは区別し,課税されるのは収益事業を行う場合のみです。
よって,マンション管理組合は収益事業を行った場合には法人税の納税義務を有することになります。
マンション管理組合が行う収益事業の代表格は駐車場の貸付けですが,その貸付け形態により次のように取扱われます。
①区分所有者である入居者のみに賃貸するケース
マンション管理組合が区分所有者というその構成員に対してのみ駐車場を賃貸する場合,それはその構成員を対象とする共済的な事業であり,その駐車場使用料は管理費等の割増金と考えられます。
一般的にはその駐車場使用料は区分所有者に分配されることはなく,組合運営費又は修繕積立金の一部に充当されますから,このような駐車場使用料はその全額が収益事業には該当しません。
これは,マンション内の会議室やゲストルーム等の利用料についても同様です。
②第三者へ賃貸するケース(区分所有者と同条件)
第三者へ賃貸するにあたり,駐車場使用料や賃貸期間等の賃貸条件について第三者と区分所有者とで特に区別せず,第三者へ賃貸した後に区分所有者から利用希望があった場合であっても,第三者に対して早期退去を求めないという場合には,駐車場使用料の全額が収益事業に該当します。
③第三者へ賃貸するケース(区分所有者優先条件有り)
第三者への賃貸は区分所有者の利用希望がない場合のみで,第三者へ賃貸した後に区分所有者から利用希望があった場合には,一定の期間内に明け渡さなければならないという区分所有者優先条件が付してある場合には,駐車場使用料のうち第三者から収受した部分だけが収益事業に該当します。
④短期間限定で第三者へ賃貸するケース
第三者への賃貸は予定していなかったが,近隣で道路工事を行っている土木業者から申出があり,工事期間中(約2週間)に限り賃貸することとしたケース等の短期間限定の一時的賃貸の場合には,その一時的賃貸は管理業務の一環であると考えられるため,区分所有者から収受した駐車場使用料も当該一時的使用料もその全額が収益事業に該当しません。
駐車場貸付業以外にもマンション管理組合が行う事業はいくつか考えられますが,マンション屋上に広告看板を設置したことによる広告主からの看板設置料は,不動産貸付業に該当し,収益事業に該当します。
また,最近多いのはマンション管理組合が移動体通信業者との間で携帯電話基地局の設置を目的として建物賃貸借契約を締結し,当該契約に基づいてマンション屋上の一部を移動体通信業者に使用させ,その設置料収入を得るケースですが,これは上記の看板設置料と同様に不動産貸付業に該当し,収益事業に該当します。
マンション管理組合が収益事業につき法人税等の申告をする場合には,その収益事業に係る収入から経費を控除して計算するわけですが,この場合,直接的な経費は当然として,間接的な経費すなわち非収益事業との共通経費についても,合理的に按分することで収益事業に係る経費として控除することができます。
これは減価償却費についても同様であり,駐車場そのものの減価償却費だけでなく,例えば建物躯体の共用部分についても合理的に按分することで収益事業に係る経費として控除することができます。
(参考)月刊税理2019年5月号
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不動産の売買契約中に相続が発生した場合の相続税の取扱いについて
不動産の売買契約を締結した後,まだ引渡しを受ける前に相続が発生してしまった場合の相続税の取扱いは以下の通りです。
<売主の場合その1>
売買契約を締結し手付金を受け取った後,まだ残金を受け取る前に売主が亡くなってしまったケース
→ 土地所有権は売主に残っているものの,もはやその実質は残金(売買残代金債権)を確保するための機能を有するに過ぎず,土地所有権そのものが独立して課税財産を構成しているわけではないと考え,課税財産となるのは土地ではなく売買残代金債権となります(最高裁昭和62年12月5日第二小法廷判決)。
よって,相続税の課税対象となるのは不動産ではなく売買残代金債権ですので,路線価等を用いて評価することはできません。不動産ではありませんので小規模宅地等の特例の適用もありません。この場合,一般的には不動産としての評価額よりも債権としての評価額の方が高くなります。
また,売主が負担することになっていた仲介手数料その他の費用で相続開始時において未払いのものについては,相続税の債務控除の対象となります。
<売主の場合その2>
売買契約を締結し手付金を受け取った後,まだ残金を受け取る前に売主が亡くなってしまい,その後相続人が当該契約を解除したケース
→ 相続税の納税義務は相続開始の時に成立するものと解され,たとえ相続開始後に相続人が売買契約を解除した場合であっても,それは被相続人から契約上の地位を承継した相続人の意思によるものであって,相続開始時において売買残代金債権が確定的に被相続人に帰属していることに変わりはありません。
よって,上記その1と同様に,相続人が契約解除をした場合であっても売買残代金債権という相続財産が相続税の課税対象となります。
不動産の売買契約を売主が解除する場合,一般的には既に受領した手付金の2倍を返金しますが,手付金を2倍返金した上に売買残代金債権という相続財産に相続税が課税されることになりますので,経済的な負担は大きくなります。
<買主の場合>
・原則的取扱い
売買契約を締結し手付金を支払った後,まだ残金を支払う前に買主が亡くなってしまったケース
→ 契約に基づく代金決済が未了の場合,買主は相続開始時点では所有権を有しておらず,相続税の課税財産に含まれるものは,土地の所有権移転請求権等の債権的権利です(前出最高裁判決)。また,被相続人から承継した債務は,相続開始時における残代金支払債務となります。
よって,相続税の課税対象となるのは所有権移転請求権(一般的には当該売買契約における購入金額)となります。また,残代金支払債務(一般的には手付金以外のこれから支払う残代金)は債務控除することができます。結果として,純額である手付金が相続税の課税対象になることと金額的には同じになります。
・例外的取扱い
不動産の売買契約を締結した日から相続開始の日までの期間が通常よりも長期間である等,購入金額が相続開始時点における所有権移転請求権の価額として適当でない場合には,別途個別に評価した金額が所有権移転請求権の価額となります。
また,原則的取扱いにかかわらず,その売買契約により購入する不動産を相続財産とする相続税の申告をすることも認められます。この場合の不動産の評価額は,路線価等を基に財産評価基本通達により評価した金額となります。
(参考)月刊税理2018年11月号
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配偶者居住権について
昨年7月に民法が改正され,相続発生後の配偶者の居住権を保護するための方策として「配偶者居住権」という新たな権利が創設されました(改正民法1028条・2020年4月1日施行)。
これまでは,例えば次のようなケースでは,相続発生後の配偶者の生活が不安定になり,残された配偶者の生活保障の安定性が求められていました。
被相続人:夫
相 続 人:妻と子
遺 産:自宅6,000万円,預貯金4,000万円
それぞれの法定相続分1/2で遺産分割しますと,配偶者は自宅の5/6しか相続できません。
仮に配偶者が自宅全部を相続した場合であっても,現金もいくらか相続できなければ相続後の生活に支障を来します。
そこで,配偶者居住権という権利を創設し,相続発生後の配偶者の居住権を保護することとしました。
配偶者居住権の具体的な内容は次のとおりです。
被相続人の配偶者は,被相続人が所有していた建物に相続開始の時に居住していた場合において,次のいずれかに該当するときは,その居住していた建物の全部について無償で使用及び収益をする権利を取得する。
・遺産分割によって配偶者居住権を取得するものとされたとき。
・配偶者居住権を遺贈により取得したとき。
このように,配偶者居住権は遺産分割や遺贈の選択肢の一つとして新たに創設された権利です。
あくまでも遺産分割や遺贈を通じて取得する権利ですので,相続発生と同時に自動的に取得できる権利ではありません。
遺言が無く,他の相続人との遺産分割協議が整わない段階では権利を取得することはできません。
先の例で,仮に配偶者居住権の評価額が2,000万円であった場合には,次のように相続することで配偶者の相続後の生活を安定させることができます。
配偶者が相続する財産:配偶者居住権2,000万円
預貯金 3,000万円
子が相続する財産:負担付所有権4,000万円
預貯金 1,000万円
配偶者居住権の存続期間は配偶者の終身の間です。
ただし,遺産分割協議若しくは遺言に別段の定めがあるとき,又は家庭裁判所が遺産分割の審判において別段の定めをしたときは,その定めるところによります。
配偶者が配偶者居住権を取得する場合,その居住建物自体は別の人が相続等することが前提となりますが,その居住建物の所有者は,配偶者に対し,配偶者居住権の設定の登記を備えさせる義務を負います。
逆に言いますと,配偶者は配偶者居住権の登記を求める権利を有することになります。
また,配偶者居住権は譲渡することはできません。
配偶者居住権は新しく創設された権利であるため,税務上は様々な取扱いが現時点では不明確です。
例えば,配偶者が亡くなって配偶者居住権が消滅した場合,その居住建物の所有者に経済的利益が生じたとして所得税や相続税等の課税があるのかどうか,或いは,配偶者居住権が設定された居住建物を売却することとなった場合において,配偶者居住権は譲渡することはできないため,配偶者は売却と同時に配偶者居住権を放棄することになると思われますが,これにより居住建物の所有者や敷地所有者に対し,配偶者居住権及び敷地利用権相当額の経済的利益が供与されたとして贈与税等の課税があるのかどうか,といった問題があります。
今後,課税当局がこれらの問題に対してどのような見解を示すのか注目されます。
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必要経費と家事関連費
事業活動を明確に区分できる法人と異なり,事業を営む個人は,商行為として行動する場合と,日常の家庭生活として行動する場合とがありますので,これら両方に関連する費用を支出した場合には,どこまでが必要経費として認められるのか,その判断が非常に難しい場合があります。
まずは原則論ですが,所得税法では,家事費及びこれに関連する経費(家事関連費)は必要経費に算入できないことになっています。しかし,例外的に下記については必要経費への参入を認めています。
- 家事関連費の主たる部分が事業所得等を生ずべき業務の遂行上必要であり,かつ,その必要である部分を明らかに区分することができる場合における当該部分に相当する経費
- (略)
このように家事関連費であっても事業に必要だと明確に区分できる部分は必要経費に算入することができるのですが,所得税法はその区分方法を規定していません。
よって,納税者一人ひとりが,自身が営む事業の内容や規模等を総合勘案して,主観的でない客観的な基準を用いて区分する必要があります。
支払家賃を例にとると,個人事業主の場合,店舗併用住宅のように住宅を兼ねた店舗や事務所で事業を営む人も多いですが,店舗部分と住宅部分とが階や部屋で明確に分かれている場合には比較的簡単に必要経費部分を算出できますが,そうでない場合は税務上のリスクがあると言わざるを得ません。
過去の裁判例(注1)においては,リビング及びダイニングキッチンの一部が業務専用スペースであるとした納税者の主張を,家族が普通に生活するスペースでもあり区分が明確でないとして退けた事例があります。
よって,税務上のリスクを回避するためには,少なくとも業務専用の部屋を設ける等の対応が望まれます。
水道光熱費や火災保険料,自己所有家屋の場合は固定資産税や減価償却費なども,業務専用の部屋を設けることで,支払家賃と同様に必要経費部分を合理的に算出することができ,一定の税務リスクを回避できそうです。
次に交際費ですが,所得税法には交際費の意義に関する規定がありません。
一方,法人税法にはその規定があるため本質的には同じ性質であると認識して差し支えないと思われますが,所得税法では「専ら業務の遂行上直接必要なものに限られる」という規定になっていますので,法人税法よりも交際費の範囲が限定的になっていることに注意が必要です。
過去の裁判例(注2)においては,医師が情報交換を目的として同業者と会食した際の飲食代や建築士との食事をしながらの打合せ費用を必要経費として計上したところ,業務上直接必要でないという理由で否認された事例があります。
いささか厳しい判断であるとは思いますが,税務リスクを回避するためには,これらの費用が業務上直接必要であることを説明できるように事前に準備しておくよりほか仕方ありません。
旅費交通費が必要経費に算入されるか否かはその目的地が業務とどのような関連性を有するかで判断しますので,通常は比較的容易に判断できると思われますが,宿泊を伴うような場合は金額も高額になりがちですので注意が必要です。
業務の前後に個人的所用をこなす場合には旅費を業務と非業務に按分する必要がありますし,家族同伴の場合には同伴者に係る部分は必要経費に算入できません。
家族旅行を兼ねた出張旅費の場合,きっかけは業務上の出張であっても,宿泊先や旅行経路,旅行期間等を総合勘案すると,もはや主目的が業務とはいえない場合も多く,このような費用の計上は税務リスクが高まりますので,合理的な基準での旅費の按分は必須となります。
(注1)東京地裁H25.10.17判決
(注2)H25.7.9裁決
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