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代表者への貸付金,代表者からの借入金
同族会社の場合,様々な理由から代表者へ金銭を貸し付けたり,逆に,代表者から金銭を借り入れたりすることがありますが,貸主と借主が実質的に同一人物ですので誰からも催促されず,故に長期間放置されがちです。
しかし,期間や利率,返済方法などの条件を決めないまま長期間放置しますと,課税上トラブルになる場合があります。
まず,代表者への貸付金ですが,無利息又は通常の金利よりも低金利で貸し付けた場合には,原則として,通常支払うべき利息相当額と実際に支払っている利息との差額が,代表者への役員報酬又は役員賞与として所得税が課税されます。
この場合における通常の金利とは,法人が他から借り入れて貸し付けたものであることが明らかな場合には,その借入金の利率により,その他の場合には,貸し付けを行った日の属する年の利子税特例基準割合(租税特別措置法第93条第2項(利子税の割合の特例))による利率をいいます。
ちなみに令和3年の利子税特例基準割合は1.0%です。
なお,次のような場合には無利息又は通常の金利より低金利で貸し付けたとしても所得税課税はありません。
①災害,疾病等により臨時的に多額の生活資金を要することとなった場合で,その返済期間として合理的と認められる場合
②法人における借入金の平均調達金利(例えば,当該法人が貸付けを行った日の前年中における借入金の平均残高に占める当該前年中の支払利息の額の割合など合理的に計算された利率)など合理的と認められる利率を定め利息を徴収している場合
③所得税が課税されるべき経済的利益の額がその法人の一事業年度あたり5,000円以下である場合
一方,貸し付けた法人側の税務上の取扱いですが,原則として,代表者に対する所得税の取扱いに準ずることになります。
すなわち,代表者に対し所得税課税される場合には法人側は受取利息と役員報酬(又は役員賞与)を認識し,所得税課税されない場合には法人側も課税上の問題無しという取扱いになります。
法人側で役員報酬(又は役員賞与)を認識した場合には法人税の計算上損金とならない可能性が高く,その場合は個人に所得税が,法人に法人税が課税され,ダブルパンチとなります。
次に,代表者からの借入金ですが,こちらは貸付金とは異なり,無利息又は通常の金利よりも低金利で借り入れた場合であっても,実務的には課税上問題となることは少ないです。
借り入れた法人は,支払うべき利息とそれが免除された債務免除益が相殺され損益が発生しませんし,貸し付けた代表者は,利息を受け取っていませんので原則として所得税課税はありません(注1)。
このように,法人税及び所得税ではそれほど問題とならない代表者からの無利息融資ですが,相続の場面においては問題となる場合があります。
代表者が法人へ資金を貸し付けたまま相続が発生しますと,その貸し付けた金額のうち未回収部分は貸付金として相続税の課税対象となります。
法人がきちんと返済できる場合には貸付金として相続税の課税対象となることは何ら問題ありませんが,回収可能性が低いにもかかわらず相続税が課税されてしまうと,相続人は自己の預金から納税しなければならないという問題が生じます。
よって,普段はあまり課税上の問題を生じさせない代表者からの借入金であっても,特に多額にある場合は何もしないまま放置しておきますと思わぬ課税を招くことがありますので,早めに対処しておく必要があります。
会社を経営していますと色々なことが生じ,同族会社とその代表者間で金銭の貸し借りをせざるを得ない場面というのは必然的に生じてしまいますが,少しずつでも良いので計画的に返済し,可能な限り互いの債権債務を解消しておくことが賢明と思われます。
(注1) 平和事件(最高裁H16.7.20第三小法廷判決):代表者がその経営する有限会社に3,000億円超の無利息融資を実施し,利息相当額の雑所得を代表者に認定し所得税課税された事件。よって,代表者の無利息融資が全く問題ないわけではなく,場合によっては所得税課税されます。
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自筆証書遺言書保管制度
遺言は相続をめぐる紛争を防止するために有用な手段であり,自筆証書遺言は自筆さえできれば遺言者本人のみで作成できますので手軽で自由度の高いものです。
しかし,遺言者本人の死亡後,相続人等に発見されなかったり,一部の相続人等により改ざんされたりする等のおそれが指摘されています。
そこで,自筆証書遺言のメリットを損なわずに問題点を解消するための方策として,自筆証書遺言書保管制度が創設されました。
<制度の流れ>
①自筆証書遺言書を作成する。
保管の際に,法務局職員(遺言書保管官)が自筆証書遺言書が民法が定める外形的な要件を充足しているか確認してくれますが,遺言の内容について相談に応じることはありません。
②保管の申請をする遺言書保管所を決める。
保管の申請ができる遺言書保管所は,遺言者の住所地,本籍地又は遺言者が所有する不動産の所在地のいずれかを管轄する遺言書保管所です。
なお,既に他の遺言書を遺言書保管所に預けている場合は,その遺言書保管所となります。
③保管の申請をする。
保管の申請は予約制です。
申請書を法務省HPからダウンロード又は法務局窓口で入手し,必要事項を記入します。
そして,次の書類を用意して,予約した日時に遺言者本人が遺言書保管所へ出向いて申請をします。
イ.遺言書
ロ.申請書
ハ.添付書類(本籍記載の住民票など)
ニ.本人確認書類(マイナンバーカードや運転免許証など)
ホ.手数料(1通3,900円)
④保管証を受け取る。
手続終了後,氏名,生年月日,遺言書保管所の名称,保管番号が記載された保管証が交付されます。
<遺言者が預けた遺言書を見る場合>
遺言者は,遺言書の閲覧請求をして保管されている遺言書の内容を確認することができます。
遺言書原本の閲覧の場合は保管されている遺言書保管所でしか閲覧できませんが,モニターによる閲覧の場合は全国どこの遺言書保管所でも閲覧することができます。
閲覧請求できるのは遺言者本人のみで,事前に予約が必要です。
モニター閲覧は1回1,400円,原本閲覧は1回1,700円の手数料がかかります。
<保管申請の撤回>
遺言者は,遺言書保管所に保管されている遺言書について,保管申請の撤回をすることで遺言書の返還を受けることができます。
<相続が発生した場合>
遺言者の死亡後,相続人や受遺者は,遺言者が本制度を利用していることを既に知っている場合には,遺言書の内容の証明書である「遺言書情報証明書」の交付を請求することができます。
相続人等の一人が当該証明書の交付を受けると,遺言書保管官は他の相続人等に対して遺言書を保管している旨を通知することになっています。
また,相続人等は,亡くなった方が本制度を利用しているか不明な場合には,遺言書が保管されているか否かを確認するために「遺言書保管事実証明書」の交付を請求することができます。
それにより遺言書が保管されていることが判明した場合には,遺言書情報証明書の交付請求や遺言書の閲覧を行うことで,遺言書の内容を確認することができます。
従来の自筆証書遺言書は,遺言者自身が原本を管理する必要があり,また,相続人等は遺言者の死亡後に家庭裁判所で遺言書の検認を受ける必要がありましたが,本制度では法務局という公的機関が遺言書を管理することで,この検認手続きが不要となりました。
自筆証書遺言書保管制度は,費用をかけずに遺言書を作成し,安全に保管したいというニーズを満たす仕組みとして,今後普及していくことが期待されています。
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歩道上空地と公開空地の相続税評価
都心湾岸地区を中心に大規模なタワーマンションの建設が今後も数多く予定されています。
中には敷地面積が24,000㎡を超えるような物件もあるようですが,このような物件の相続税評価はいくつか注意点があります。
まず,土地の評価方法の基本ですが,土地の評価方法には路線価方式と倍率方式があります。
1.路線価方式
路線価方式は,路線価が定められている地域の評価方法で,路線価とは路線(道路)に面する標準的な宅地の1㎡当たりの価額のことです。
路線価方式における土地の価額は,路線価をその土地の形状等に応じた奥行価格補正率などの各種補正率で補正した後に,その土地の面積を乗じて計算します。
2.倍率方式
倍率方式は,路線価が定められていない地域の評価方法で,倍率方式における土地の価額はその土地の固定資産税評価額に一定の倍率を乗じて計算します。
そして,マンションの場合ですが,一般的なマンションは区分所有となっていますので,上記により計算した評価額に敷地権割合を乗じて区分所有マンションの敷地の評価額を算出します。
<歩道上空地>
ところで,マンションを建設する場合,都市計画法等の開発行為の許可を受けるため,地方公共団体の指導要綱等を踏まえた行政指導により,敷地のうち道路沿いの一部を私道として整備する場合があります。
このような私道は「歩道状空地」と呼ばれ,その舗装にはアスファルト舗装のほか,色のついたコンクリートブロックを敷き詰めるインターロッキング舗装がよく用いられます。
実はこの歩道上空地は,従来は道路と同様に第三者が通行している場合であっても,私道としての評価ができませんでした。
しかし,最高裁平成29年2月28日判決が私道として評価することを認めたため,現在では,法令上の制約の有無のみならず,その宅地の位置関係,形状等や道路としての利用状況,これらを踏まえた道路以外の用途への転用の難易等に照らし,客観的交換価値に低下が認められる場合には,その宅地を財産評価基本通達24に基づき評価する,すなわち私道としての評価が認められることとなりました。
よって,不特定多数の者の通行の用に供されている歩道上空地の評価額はゼロとなります(特定の者の通行の用に供されている場合には30%評価)。
尚,国税庁が歩道上空地に関する評価の取扱いを変更したのは平成29年7月ですが,変更後の取扱いは過去に遡って適用されますので,過去の相続税が納めすぎになる場合には,国税通則法の規定に基づき所轄の税務署に更正の請求をすることにより,納めすぎとなっている相続税の還付を受けることができます。
この更正の請求ができる期間は法定申告期限から5年以内です。
<公開空地>
次に,歩道上空地と同じようにマンションを建設する際に設置されるものに公開空地というものがあります。
公開空地とは,マンション敷地内に設けられた広場や遊歩道,ピロティなどの空地のことで,マンション所有者だけでなく周辺住民や通行人など一般の人も利用できるので,歩道上空地と同じように評価減できるのではないかとも考えられます。
しかし,公開空地は,建物の敷地内に日常一般に公開する一定の空地を有するなどの基準に適合して許可を受けることにより,容積率や建物の高さに係る規制の緩和を受けるために設けられるものであって,建物を建てるために必要な敷地を構成するものということで,その評価は通常通り建物の敷地として評価します。
似たような状況にある歩道上空地と公開空地ですが,相続税評価上は取扱いが異なるので注意が必要です。
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同族関係者間での不動産取引は売買金額に要注意
資金繰りなど事業上の様々な理由から社長が所有している不動産を同族会社に売却すること(あるいはその逆)がありますが,自由に売買金額を決められるからといって意図的に売買金額を低く設定すると税務上問題となります。
大原則として,税法では全て「時価」をベースに課税関係が成立します。
そして,不動産取引における時価は「通常の取引価額に相当する金額」と考えておけば税務上問題となることはほぼありません。
相続税評価額や固定資産税評価額も時価の一種ではありますが,これらの金額が時価だとして売買金額を設定しますと税務上問題となることがあります。
<1.社長所有不動産を同族会社へ低額譲渡した場合>
通常の取引価額に相当する金額いわゆる市場価額で譲渡する場合には特に問題ありませんが,時価の1/2未満で譲渡した場合には,時価で譲渡があったものとみなして譲渡所得課税が行われます(個人から法人に対する譲渡に限ります。所法59①二,所令169)。
時価100の土地を40で譲渡した場合であっても,100で譲渡したものとみなして所得税が計算されるということです。
では時価の1/2以上であれば全く問題ないのかというとそうではなく,時価の1/2以上であっても「同族会社の行為計算の否認」規定に抵触する場合には,やはり時価で譲渡があったものとして課税されます。
※所法157「同族会社の行為計算の否認」とは,同族会社はその関係者間で恣意的に取引を行うことができるため,それを許すと税負担が不当に減少してしまう場合には,会社の行為計算を否認して税務署長が税額計算を行うことができるという規定です。同様の規定は法人税法にも相続税法にもあります。
一方,購入者である同族会社は,譲渡対価として40しか支払っていなくても100の土地を購入したことになりますので,60の受贈益が発生し,この受贈益に対して法人税が課税されます。
<2.同族会社所有不動産を社長へ低額譲渡した場合>
この場合も通常の取引価額に相当する金額いわゆる市場価額で譲渡する場合には特に問題ありませんが,それよりも低い価額で取引が行われますと次のような取扱いとなります。
まず,譲渡者である同族会社は,時価100の土地を40で社長に譲渡しますと,差額の60は社長に対する役員賞与とみなされます。
役員に対する賞与ですので法人税の計算上損金(費用)とはなりません。
当然,賞与ですので社長の所得税の課税対象となります。更に,同族会社は賞与に対する所得税の源泉徴収漏れを指摘される可能性が高いです。
先ほどの社長→同族会社の場合には譲渡者が個人なので所得税法が適用され,所得税法には「著しく低い価額の対価=時価の1/2未満」という規定がありますが(所令169),同族会社→社長の場合には譲渡者が法人なので法人税法が適用されますが法人税法には1/2未満とかそういった規定がありません。
よって,時価100の土地を80で譲渡した場合には,同族会社の行為計算の否認規定に抵触するか否かにかかわらず,差額の20に対し上記のような取扱いとなる可能性があります。
<3.個人間の場合>
上記1のみなし譲渡の規定は個人から法人に対する譲渡に限るのですが,個人から個人へ時価よりも低い価額で譲渡した場合には,購入者が,その譲渡対価と時価との差額に相当する金額を,譲渡者から贈与により取得したものとみなして贈与税が課税される可能性があります(相法7)。
<4.法人間の場合>
それぞれ上記1及び2と同様の取扱いとなります。
同族関係者間で自由に売買金額を設定することができる場合であっても,市場価額からかけ離れた金額を設定するとかえって不利益となることがありますので,常識の範囲で金額設定するのが賢明です。
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新型コロナウイルス感染症対策情報その6
新型コロナウイルス感染症に対して国や地方公共団体が講じている各種支援制度の概要をご紹介します。
<一時支援金の支給> ※3月初旬受付開始予定
緊急事態宣言の再発令に伴い,次の要件のいずれかに該当する者で,本年1~3月のいずれかの月の売上高が対前年比(or対前々年比)50%以上減少している者については,法人は60万円,個人事業者は30万円を上限に一時支援金が支給されます。
①緊急事態宣言発令地域の飲食店と直接・間接の取引がある
②緊急事態宣言発令地域における不要不急の外出・移動の自粛による直接的な影響を受けた
給付要件を満たす事業者であれば,業種や所在地を問わず給付対象となり得ます。
なお,店舗単位ではなく,事業者単位の給付です。
飲食店の時短営業又は不要不急の外出・移動の自粛以外の理由で売上が50%以上減少した場合は対象外です。
<事業再構築補助金> ※3月初旬受付開始予定
ポストコロナ・ウィズコロナ時代の経済社会の変化に対応するため,企業が新分野展開,業態転換,事業・業種転換等の取組,事業再編又はこれらの取組を通じた規模の拡大等を目指す等,思い切った事業再構築を支援するための補助金制度が創設されます。
[申請要件]
・申請前の直近6か月間のうち任意の3か月の合計売上高がコロナ以前の同3か月の合計売上高と比較して10%以上減少している中小企業等
・事業計画を認定経営革新等支援機関や金融機関と策定し一体となって事業再構築に取り組む中小企業等
・補助事業終了後3~5年で付加価値額の年率平均3.0%(一部5.0%)以上増加又は従業員一人当たり付加価値額の年率平均3.0%(一部5.0%)以上増加の達成
[補助額]
(中小企業)
・通常枠 補助額100万円~6,000万円 補助率2/3
・卒業枠 補助額6,000万円~1億円 補助率2/3
※卒業枠:400社限定。事業計画期間内に,①組織再編,②新規設備投資,③グローバル展開のいずれかにより資本金又は従業員を増やし中小企業から中堅企業へ成長する事業者向けの特別枠。
(中堅企業)
・通常枠 補助額100万円~8,000万円 補助率1/2
・V字回復枠 補助額8,000万円~1億円 補助率1/2
※グローバルV字回復枠:100社限定。次の要件を全て満たす中堅企業向けの特別枠。
①直前6か月間の任意3か月の合計売上がコロナ以前の同3か月の合計売上と比較して15%以上減少している中堅企業。
②補助事業終了後3~5年で付加価値額又は従業員一人当たり付加価値額の年率5.0%以上増加を達成すること。
③グローバル展開を果たす事業であること。
(緊急事態宣言特別枠)
緊急事態宣言に伴う飲食店の時短営業や不要不急の外出・移動の自粛等により影響を受けたことにより令和3年1~3月のいずれかの月の売上高が前年又は前々年同月比30%以上減少していること。
・補助額
従業員数5人以下:100万円~500万円
従業員数6~20人:100万円~1,000万円
従業員数21人以上:100万円~1,500万円
・補助率 中小企業3/4 中堅企業2/3
上記補助金はいずれもjGrants(電子申請システム)での申請受付を予定しているようです。
jGrantsでの申請にはGビズIDが必要で,この発行に2~3週間かかりようですので補助金の申請をお考えの方は事前にGビズIDの取得をお勧め致します。
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