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事前確定届出給与
法人税法では,役員に対して支給する給与(退職給与その他一定のものを除く)のうち,定期同額給与,事前確定届出給与及び業績連動給与に該当するものだけが損金の額に算入されます。
これらのうち,事前確定届出給与に関する規定の概要は以下のとおりです。
事前確定届出給与とは,定期同額給与及び業績連動給与のいずれにも該当しない給与で,その役員の職務につき所定の時期に,確定した額の金銭または確定した数の株式等を交付する旨の定めに基づいて支給する給与で,原則として予め届出をしているものをいいます。
もう少しわかりやすくいいますと,取締役甲さんに○月△日に××万円を支給しますと定めて,これを予め届け出た給与という意味です。
ただし,①同族会社以外の法人が定期給与を支給しない役員に対して金銭で支給する給与,②株式又は新株予約権による給与で将来の役務の提供に係る一定のもの,については届出の必要はありません。
事前確定届出給与の届出期限は次のとおりです。
(1)原則:株主総会等の決議により役員の職務につき所定の時期に確定額を支給する旨を定めた場合・・・次のいずれか早い日
A その決議をした日(その日が職務執行開始日後である場合には職務執行開始日)から1月を経過する日
B 職務執行開始日の属する会計期間開始の日から4月(確定申告書の提出期限の延長の特例の指定を受けている法人についてはその指定に係る月数に3を加えた月数)を経過する日
(2)新設法人の場合:その設立の日以後2月を経過する日
(3)臨時改定事由により新たに事前確定届出給与の定めをした場合:次のいずれか遅い日
A (1)の届出期限((2)に該当する場合は(2)の期限)
B 臨時改定事由が生じた日から1月を経過する日
事前確定届出給与の届出書に記載すべき主な事項は次のとおりです。
(1) 法人の名称,納税地,法人番号及び代表者氏名
(2) 事前確定届出給与対象者の氏名及び役職名
(3) 事前確定届出給与の支給時期,各支給時期における支給額又は交付株式数等
(4) 株主総会等の決議により上記支給額及び支給日等を定めた日並びにその決議機関等
(5) 事前確定届出給与に係る職務執行開始日
(6) 定期同額給与による支給としない理由及び事前確定届出給与の支給時期を(3)の時期とした理由
(7) 事前確定届出給与以外の給与の支給時期及び支給額
このように,事前確定届出給与は支給時期,支給金額が事前に確定していて,実際にもその定めのとおりに支給される給与に限られますので,所轄税務署長へ届け出た支給額と実際の支給額が異なる場合には,事前に支給額が確定していたものとはいえないことから,その支給額は事前確定届出給与に該当しないものとなり,それが増額支給であっても減額支給であっても,実際の支給額の全額が損金不算入となります。特に,増額支給の場合には増額分だけではなく,全額が損金不算入となることに注意が必要です。
また,例えば6月と12月にそれぞれ200万円の事前確定届出給与を支給する旨を定めた場合において,6月は定めたとおりに200万円を支給したものの,12月は半額の100万円しか支給しなかった場合には,12月の100万円だけが事前確定届出給与に該当しないこととなるわけではなく,6月と12月の全額が事前確定届出給与に該当しないこととなり,支給合計の300万円全額が損金不算入となります。
事前確定届出給与を支給する旨を定めて届け出たものの,実際には全く支給しなかった場合には,税務上は次のような仕訳を認識します。
(借方)役員賞与 (貸方)未払金
(借方)未払金 (貸方)債務免除益
これは,株主総会等で事前確定届出給与を定めた時点で債務が確定しているため,役員賞与を一旦認識し,その上で債務免除益を認識する必要があるからです。この場合,役員賞与に対する源泉所得税の問題も生じてしまいます。
そこで,上記のような税務上の問題を回避するため,実務上は,支給日到来前に役員賞与を不支給とする臨時株主総会等の決議をしておく必要があります。
そうすることで,事前確定届出給与の届出をしたものの,資金繰り等の都合により支給を止めたいと思った場合であっても,税務上の影響を受けることなく,その支給を止めることができます。
事前確定届出給与は年に3回までの支給であれば社会保険上は賞与として取り扱われますが,月額報酬及び賞与に対する社会保険料の算定にはそれぞれ上限があることから,月額報酬と賞与のバランスを考慮して金額設定を行うことで,場合によっては社会保険料の金額を総体的に低く抑えることが可能となります。
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