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分掌変更による役員に対する退職給与

2024-09-04(水) 17:36:50

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法人税法34条1項は,「内国法人がその役員に対して支給する給与(退職給与で業績連動給与に該当しないもの(略)を除く。)のうち次に掲げる給与のいずれにも該当しないものの額は,その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上,損金の額に算入しない。」と定め,「次に掲げる給与」として,①定期同額給与,②事前確定届出給与,③業績連動給与の3つを規定しています。

 

また,同条2項において「その役員に対して支給する給与の額のうち不相当に高額な部分の金額」を,同条3項において「事実を隠蔽し,又は仮装して経理をすることによりその役員に対して支給する給与の額」を,それぞれ損金の額に算入しないと規定しています。

 

よって,役員に対する退職給与は不相当に高額でなく,かつ,事実を隠蔽・仮装して支給したものでない限り,損金の額に算入されることになるわけですが,課税実務上は事実認定の問題もあり,その性質上,金額も高額になりがちであるため,その解釈は容易ではなく,課税上しばしば問題となります。

ちなみに,法人税法では役員に対する退職給与に関する直接的な規定は設けていません。

 

ところで,常勤役員が非常勤役員になるなどの分掌変更の際に退職金を支給するということは,実務上,まま見受けられますが,このような退職金に関しては,法人税基本通達9-3-32が次のように定めています。

 

「法人が役員の分掌変更又は改選による再任等に際しその役員に対し退職給与として支給した給与については,その支給が,例えば次に掲げるような事実があったことによるものであるなど,その分掌変更等によりその役員としての地位又は職務の内容が激変し,実質的に退職したと同様の事情にあると認められることによるものである場合には,これを退職給与として取り扱うことができる。

(1)常勤役員が非常勤役員(常時勤務していないものであっても代表権を有する者及び代表権は有しないが実質的にその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者を除く。)になったこと。

(2)取締役が監査役(監査役でありながら実質的にその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者及び〈略〉を除く。)になったこと。

(3)分掌変更等の後における役員(その分掌変更等の後においてもその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者を除く。)の給与が激減(おおむね50%以上の減少)したこと。」

(注)本文の「退職給与として支給した給与」には,原則として,法人が未払金等に計上した場合の当該未払金等の額は含まれない。」

 

なお,上記通達は,実際に退職していない者に対する退職給与の支給であっても,実質的な事情を鑑みて税務上の取扱いを緩和する趣旨でありますから,例えば上記(3)の要件である「分掌変更後の給与が50%以上減少」を形式的に満たしていたとしても,実質的に退職したと同様の事情にない場合には,その支給した臨時的な給与を退職給与として損金算入することはできません。

 

また,「法人の経営上主要な地位を占めていない」とは抽象的な表現であるため,最終的にはそれぞれの法人における事実認定の問題ですが,例えば,次のような事案に関与している場合には,法人の経営上主要な地位を占めていると考えられます。

①採用や人事異動,給与査定等の人事上の決定

②主要な売上先や仕入先等への対応

③取引先の選定や新規契約等の営業上の決定

④金融機関等への対応

⑤設備等の取得や修繕等の会計上の決定

⑥主要な経営会議への出席や指示命令等

 

分掌変更による役員に対する退職給与に関する上記通達は,実際には退職していないものの,実質的に退職したと同様の事情にあること(地位の低下)を前提としているため,従前と勤務実態が変わらず,単なる勤務関係の延長と認定されないように,客観的事実を複数積み重ねておくことが重要だと思われます。

 

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