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課税しない経済的利益(従業員慰安旅行の場合)
所得税法上,給与所得とは「俸給,給料,賃金,歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る所得ををいう。」と定められ,また,給与所得の金額は「その年中の給与等の収入金額から給与所得控除額を控除した残額」ですが,その収入金額には,「金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもって収入する場合には,その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額」も含まれます。
また,このような給与所得の意義については,判例上,「勤労者が勤労者たる地位に基づいて使用者から受ける給付は,すべて給与所得を構成する」と解されていますので,従業員が使用者(会社)から会食や旅行等の費用負担を受けた場合には,厳密にいえばこれらの経済的利益は全て給与所得を構成し,その従業員に対して所得税が課されます。
しかしながら,一般的に社内のレクリエーションとして行われている行事は,従業員の親睦を図り,士気を高めるという使用者の必要に基づくものであって,必ずしも参加者の希望に合致するものばかりとはいえず,また,それにより各人が受ける経済的利益の額も少額と認められることから,使用者がその行事の費用を負担した場合であっても,その行事に参加したことによる経済的利益については少額不追及の観点から強いて課税しないこととされています。
このことは所得税基本通達36-30(課税しない経済的利益…使用者が負担するレクリエーションの費用)が次のように規定しています。
「使用者が役員又は使用人のレクリエーションのために社会通念上一般的に行われていると認められる会食,旅行,演芸会,運動会等の行事の費用を負担することにより,これらの行事に参加した役員又は使用人が受ける経済的利益については,使用者が,当該行事に参加しなかった役員又は使用人(使用者の業務の必要に基づき参加できなかった者を除く。)に対しその参加に代えて金銭を支給する場合又は役員だけを対象として当該行事の費用を負担する場合を除き,課税しなくて差し支えない。(注)上記の行事に参加しなかった者(使用者の業務の必要に基づき参加できなかった者を含む。)に支給する金銭については,給与等として課税することに留意する。」
ただし,同通達の注意書きにもあるとおり,自己都合による不参加者に対して金銭を支給する場合には,その行事に参加しないで金銭支給を受けることの選択肢があるわけですから,参加者,不参加者ともに,その支給を受ける金銭の額に相当する給与の支払いがあったものとして所得税が課税されます。
また,慰安旅行については個別通達(昭63直法6-9)も発遣されていて,次のように規定されています。
「使用者が,従業員等のレクリエーションのために行う旅行の費用を負担することにより,これらの旅行に参加した従業員等が受ける経済的利益については,当該旅行の企画立案,主催者,旅行の目的・規模・行程,従業員等の参加割合・使用者及び参加従業員等の負担額及び負担割合などを総合的に勘案して実態に即した処理を行うこととするが,次のいずれの要件も満たしている場合には,原則として課税しなくて差し支えないものとする。
(1)当該旅行に要する期間が4泊5日(目的地が海外の場合には,目的地における滞在日数による。)以内のものであること。
(2)当該当該旅行に参加する従業員等の数が全従業員等(工場,支店等で行う場合には,当該工場,支店等の従業員等)の50%以上であること。」
なお,当該個別通達は,社会通念上,一般的に行われていると認められる簡易なレクリエーション行事に対する取扱いであり,各人が受ける経済的利益の額が多額なものについてまで非課税とする趣旨ではありません。
過去の裁判例では,タイ3泊4日の旅費一人当たり18万円は福利厚生費に該当する(平成3年7月18日裁決),シンガポール3泊4日の旅費一人当たり34万円,アメリカ西海岸3泊4日の旅費一人当たり45万円及びカナダ3泊4日の旅費一人当たり52万円はいずれも給与等に該当する(平成8年1月26日裁決),マカオ2泊3日の旅費一人当たり24万円は給与等に該当する(東京地裁平成24年12月25日判決),と判断した事例があります。
このうちマカオ2泊3日の判決については,他の裁判例や上記個別通達の趣旨からもあまりにも厳しすぎるという批判があります(品川芳宣「重要租税判決の実務研究(第四版)」(大蔵財務協会・令和5年)282頁)。
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