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役員退職給与の算定方法と留意点
役員退職給与の支給は税務調査において調査されることが多い項目の一つですが,一般的に役員退職給与は金額が大きいだけに,その損金性を否認されたときのダメージは相当なものとなりますので,その支給については慎重な対応が求められます。
法人税法では,役員に対して支給する給与のうち不相当に高額な部分の金額は損金の額に算入しないこととされていますが,役員退職給与に関して不相当に高額な部分の金額とは,「その退職した役員に対して支給した退職給与の額が,当該役員のその内国法人の業務に従事した期間,その退職の事情,その内国法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対する退職給与の支給の状況等に照らし,その退職した役員に対する退職給与として相当であると認められる金額を超える場合におけるその超える部分の金額」と規定されています。
これらを要約しますと,その支給した役員退職給与の額が,①業務に従事した期間,②退職の事情,③同種の事業を営む法人でその事業規模が類似する法人の役員退職給与の支給状況等に照らし,不相当に高額な部分の金額については損金の額に算入しない,ということになります。
しかしながら,納税者側が不相当に高額でない金額=適正額を把握するのは極めて困難であり,特に上記③については,全国の税務調査を経て様々なデータを入手できる課税当局と異なり,納税者側は「同種の事業を営む法人でその事業規模が類似する法人の役員退職給与の支給状況」を知る機会は限られますので,民間調査会社等が公表している指標を参考にする程度しか術がありませんが,それをもって課税当局と対峙するのでは,何とも心もとないというのが実情です。
そこで,実務においては,役員退職給与の適正額の判断をめぐって争われた複数の裁判例等を参考にし,いわゆる「功績倍率方式」により役員退職給与の適正額を算定するのが一般的です。
すなわち功績倍率方式とは,「最終月額報酬×勤続年数×功績倍率」という計算式で求められるのですが,一般的に,最終月額報酬は役員の在職期間中における最高水準を示すとともに在職期間中における会社に対する功績を最もよく反映しており,役員の在職期間の長短は報酬後払いとしての性格の点にも功績評価の点にも影響を及ぼし,功績倍率は当該役員の法人に対する功績や退職金支払い能力等の個別的要素を総合勘案した係数といえるため,支給した役員退職給与の額が不相当に高額か否かを判断する判定方法として,法の趣旨に合致した合理的なものとされています。
ただし,この功績倍率方式も必ずしも万能とはいえず,例えば,何らかの理由で最終月額報酬が過去の月額報酬に比し明らかに低い(又は高い)場合には,役員退職給与の適正額の算定方法としては適切でないということになります。
このような場合には,「類似法人における役員勤続1年当たりの平均退職給与×勤続年数」という計算式で役員退職給与の適正額を算定する「1年当たり平均額法」が用いられたりします。
このように,多くの裁判例及び実務においては功績倍率方式又は1年当たり平均額法が採用されているのですが,これらの方法は究極的には類似法人の選択が最も重要であるといえ,その類似法人の選択については前述したとおり納税者側は圧倒的に不利な立場であり,また,課税当局が選択した類似法人が明らかに不適切なケースも間々あります。
そもそも,売上や資産規模等が類似しているからといって,それぞれの法人にはそれぞれの事情や経緯,歴史等があり,役員退職給与の額を算定するに当たり類似法人の支給状況と比較することが税務行政として合理的なのか疑問だという根強い批判があります。
そして,課税当局もそのことを認識しているからか,税務調査では「役員退職給与が過大だから一部修正して欲しい」と修正申告を慫慂してくるのが常であり,立証責任の問題から進んで更正処分をしようとはしません。
よって,納税者側としては,税務調査において役員退職給与の額が類似法人に比し過大だと指摘された際に,反論できるだけの説得力のある理屈を用意しておくことが必要となります。
前述のとおり役員退職給与は金額が大きいだけに,支給時期や手続き規定も含め慎重な対応が求められます。
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