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副業節税にご用心
ここ数年,政府が副業を推進していることもあり,日本企業の中でも副業を認めるケースが増加しているようですが,給与所得者によるいわゆる「副業節税」をめぐり,課税当局とトラブルになるケースが増加しているようです。
何が問題視されているのか,以下,概観してみたいと思います。
給与所得者Aさんは,令和4年中に副業を開始し,税務署に開業届を提出しました。
もうすぐ令和4年が終わりますが,副業開始初年は収入よりも必要経費の方が多くかかり,マイナスとなりそうです。
年明けに確定申告をしますが,副業が「事業所得」に該当する場合には,給与所得と相殺することができるので給与所得から源泉徴収された所得税の還付を受けることができます(これを「副業節税」という)が,副業が「雑所得」に該当する場合には給与所得と相殺できないため,原則としてそのマイナスは無かったものとみなされ,当然,還付はありません。
では,何を基準に事業所得あるいは雑所得に該当すると判断するのか,ですが,所得税法においては「事業」から生ずる所得は事業所得に該当し,事業と称するに至らない程度の「業務」から生ずる所得は雑所得に該当すると区分しているものの,「事業」とは何かの明確な定義規定はありません。
政令において「対価を得て継続的に行う事業」が事業所得に該当する,と定めているに過ぎません。
この点につき最高裁昭和53年10月31日判決(訟月25巻3号889頁)は,
「『対価を得て継続的に行う事業』に該当するか否かは,結局,一般社会通念に照らして決めるほかないと思われるが,その判断に際しては,営利性・有償性の有無,継続性・反復性の有無のほかに事業としての社会的客観性の有無が問われなければならず,この観点からは,当然にその取引の種類,取引における自己の役割,取引のための人的・物的設備の有無,資金の調達方法,取引に費やした精神的,肉体的労力の程度,その者の職業・社会的地位などの諸点が,検討されなければならない」
としています。
よって,その人の営む副業が事業所得あるいは雑所得のどちらに該当するのかは個別に判断するしかありませんが,国税庁は,令和4年10月7日に所得税基本通達35-2(業務に係る雑所得の例示)を改正し,国税庁としての見解を公表しました。
注目すべきは新たに付された注意書き部分で,
「事業所得と認められるかどうかは,その所得を得るための活動が,社会通念上事業と称するに至る程度で行っているかどうかで判定する。なお,その所得に係る取引を記録した帳簿書類の保存がない場合(その所得に係る収入金額が300万円を超え,かつ,事業所得と認められる事実がある場合を除く。)には,業務に係る雑所得(中略)に該当することに留意する。」
と示されたことです。
注意書き前半は,前掲最高裁判決が判示した「社会通念で判断」をそのまま踏襲しておりますが,後半のなお書き部分は,取引を記録した帳簿保存が無い場合には雑所得に該当すると明示しました。
ただし,カッコ書きにおいて,その所得に係る収入金額が300万円を超え,かつ,事業所得と認められる事実がある場合を除く,となっていますので,この場合には帳簿保存が無くても原則に立ち返り社会通念で判断することになります。
上記通達をまとめると次のようになります。
収入金額 | 帳簿保存有り | 帳簿保存無し | ||
300万円以下 | 社会通念で判断 | 雑 | ||
300万円超 | 原則:雑例外:事業(注1) | |||
(注1)事業所得と認められる事実有りの場合 |
副業と称するくらいですから一般的には給与所得者が行う副業は雑所得に該当すると思われますが,仮に事業所得に該当するケースがあるとしても,事業と称するレベルで副業を行って赤字を生むというのも本末転倒であり,その赤字を給与所得と損益通算するというのはそもそも無理があるように思いますので,安易な副業節税にはご注意下さい。
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