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源泉徴収制度について
所得税は,納税者が自らその年の所得金額とこれに対する税額を計算して,これらを自主的に申告・納付する「申告納税制度」を採用していますが,これと併せて特定の所得については,その所得の支払者がその支払の際に所得税を徴収して国に納付する「源泉徴収制度」を採用しています。
源泉徴収制度と申告納税制度の関係を税理士を例にとって説明しますと,税理士に報酬を支払う法人はその支払いの際に,一定の所得税を源泉徴収して国に納付しなければならず(ここまでが源泉徴収制度),そして税理士は,自らが所得金額と税額を計算して確定申告する際に,源泉徴収された所得税を自らが前払いした所得税として認識し,過不足を精算する(ここが申告納税制度)ことで課税関係が完結するという関係です。
源泉徴収の対処となる所得を支払う者で所得税を源泉徴収する義務を有する者を「源泉徴収義務者」といいますが,源泉徴収は義務ですのでそれを怠ると当然罰則があります。
前述した源泉徴収制度と申告納税制度との関係から,報酬を支払う法人が源泉徴収を失念しても,報酬を受け取った個人が確定申告すれば最終的には国に納付する税額は同額になるので問題ない,と考える向きもありますが,法律の構成上も過去の裁判例からもこういった主張は認められません。
源泉徴収義務者が源泉徴収を失念して満額を支払ってしまった場合には,支払いを受けた者から源泉徴収すべきであった金額を返還してもらい,あらためて源泉徴収義務者が国に納付する必要があります。
返還を受ける前に源泉徴収義務者が源泉徴収すべきであった金額を国に納付した場合には,支払いを受けた者に対し求償権が発生します。
この求償権を行使して源泉徴収すべきであった金額を回収できれば良いのですが,様々な理由から回収できなかった場合には,その求償権に相当する金額が追加で所得を支払ったと認識され,その追加所得に対する新たな源泉徴収義務が生じるといった堂々巡りの状態となってしまいます。
実務では逆算して源泉徴収すべき金額を計算するなどして堂々巡りにならないよう対処しますが,いずれにしても源泉徴収義務を怠ると結構厄介です。
源泉徴収を失念した場合等を含め,納付すべき源泉徴収による国税を法定納期限までに納付しなかった場合には,原則として,納付すべきであった金額の10%に相当する不納付加算税が課税されます。
また,法定納期限から納付された日までの延滞税も課税されます。
ところで,法人経理において,個人に対する支払いについて全て所得税を源泉徴収しているケースをまま見かけますが,「源泉徴収の対象となる所得」とは所得税法に定められた所得だけをいいますので,個人に対する支払いであってもその全てが源泉徴収の対象となるわけではありません。
しかし,源泉徴収の対象か否かの判断が難しいため,個人に対する支払いについて全て所得税を源泉徴収してしまっても,支払いを受けた個人からすれば,いずれ確定申告で源泉徴収された所得税を精算するわけであり,源泉徴収義務者である法人からすれば,判断を誤って源泉徴収せずに不納付加算税や延滞税を課税されるといったリスクを回避できるわけですから,こういった処理は実務的な知恵であり,支払いを受ける個人から同意を得ているのであれば何ら問題ないと思われます。
源泉徴収が必要となる所得は,上記の報酬・料金以外にも,給与所得,退職所得,公的年金等,利子所得及び配当所得など多岐に渡ります。
また,非居住者や外国法人に対しては,不動産の譲渡対価や賃貸料に対しても源泉徴収義務を有する場合があり,特に注意が必要です。
一般的に不動産譲渡は金額が大きいため源泉徴収すべき金額も大きくなりますが,これを失念しますと,まずは源泉徴収義務者として源泉徴収すべきであった金額を国に納税し,同額の求償権が発生するものの海外にいる非居住者や外国法人から回収するのは容易ではなく,仮に回収不能となった場合の影響は甚大です。
個人や外国法人へ支払いをする際は,常に源泉徴収義務を意識して,不利益を被らないよう注意しましょう。
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