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実質的支配者リスト制度

2022-05-20(金) 09:16:00

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令和4年1月31日より,法務省の制度として「実質的支配者リスト制度」の運用が開始されました。

以下,この制度の概要をご紹介します。

 

近年,組織犯罪やテロ活動等の脅威が増す中,国際社会は協調して,それらの防止・撲滅に取り組む必要があることは異論のないところでありますが,その一環として,大手金融機関においては,マネーロンダリングやテロ資金供与を防止するための管理体制を強化するべく,融資先企業等に対し,当該金融機関との取引の目的や経済制裁対象国に関連する取引の有無,その企業の実質的支配者等を確認するようになっています。

 

この確認作業の多くは書面の提出又はWeb入力を融資先企業等に依頼するといった方法で行われておりますが,その確認事項の一つである企業の「実質的支配者」の部分について,確認作業に国として関与する必要性が増してきたため法務省が制度を用意しました。

それが「実質的支配者リスト制度」です。

 

これまで我が国には株式会社の実質的支配者に関する商業登記制度がなく,犯罪収益移転防止法における株式会社の実質的支配者の確認は各金融機関にゆだねられてきました。

しかし,こうした姿勢が,FATF(Financial Action Task Forces:金融活動作業部会)から厳しい評価を受けたことも背景にあります。

 

<本制度の概要>

本制度は,株式会社(特例有限会社を含む)からの申出により,商業登記所の登記官が,当該株式会社が作成した実質的支配者リストについて,所定の添付書面により内容を確認し,その保管及び登記官の認証文付きの写しの交付を行うものです。

 

具体的には次のような流れになります。

①株式会社の代表者又は代理人が,実質的支配者リストを作成する。

②上記リスト,申出書,添付書面(実質的支配者リストの内容を証する書面)を法務局に提出する。

③法務局の登記官が申出内容を確認し,問題が無ければ実質的支配者リストを保管し,認証文付きの実質的支配者リストの写しを交付する。

④交付を受けた実質的支配者リストを金融機関等へ提出する。

 

本制度の対象となる実質的支配者とは,犯収法施行規則第11条第2項第1号の自然人(同条第4項の規定により自然人とみなされるものを含む)に該当する者をいい,具体的には,次の①又は②のいずれかに該当する者です。

①会社の議決権の総数の50%を超える議決権を直接又は間接に有する自然人(この者が当該会社の事業経営を実質的に支配する意思又は能力がないことが明らかな場合を除く。)

②上記①に該当する者がいない場合は,会社の議決権の総数の25%を超える議決権を直接又は間接に有する自然人(この者が当該会社の事業経営を実質的に支配する意思又は能力がないことが明らかな場合を除く。)

 

上記①及び②に該当する者がいない場合における実質的支配者は「出資,融資,取引その他の関係を通じて事業活動に支配的な影響を有する自然人」となりますが,この場合における実質的支配者は本制度の対象外です。

 

本制度の運用はまだ始まったばかりであり,制度の利用は任意でもあるため,現時点では広く認知されているとは言い難いですが,今後は新たな銀行口座開設の際や融資の際に,本制度による実質的支配者リストの写しの提出を求められていくものと思われます。

 

また,制度趣旨としてはあくまでもマネーロンダリングやテロ資金供与の防止にありますが,個人所得税や相続税の現場における名義預金や名義株の判定にも利用され得るため,法人のみならず個人の税務リスクも意識して本制度を利用する必要があると思われます。

 

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