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代表者への貸付金,代表者からの借入金

2021-07-09(金) 10:09:59

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同族会社の場合,様々な理由から代表者へ金銭を貸し付けたり,逆に,代表者から金銭を借り入れたりすることがありますが,貸主と借主が実質的に同一人物ですので誰からも催促されず,故に長期間放置されがちです。

 

しかし,期間や利率,返済方法などの条件を決めないまま長期間放置しますと,課税上トラブルになる場合があります。

 

まず,代表者への貸付金ですが,無利息又は通常の金利よりも低金利で貸し付けた場合には,原則として,通常支払うべき利息相当額と実際に支払っている利息との差額が,代表者への役員報酬又は役員賞与として所得税が課税されます。

 

この場合における通常の金利とは,法人が他から借り入れて貸し付けたものであることが明らかな場合には,その借入金の利率により,その他の場合には,貸し付けを行った日の属する年の利子税特例基準割合(租税特別措置法第93条第2項(利子税の割合の特例))による利率をいいます。

ちなみに令和3年の利子税特例基準割合は1.0%です。

 

なお,次のような場合には無利息又は通常の金利より低金利で貸し付けたとしても所得税課税はありません。

①災害,疾病等により臨時的に多額の生活資金を要することとなった場合で,その返済期間として合理的と認められる場合

②法人における借入金の平均調達金利(例えば,当該法人が貸付けを行った日の前年中における借入金の平均残高に占める当該前年中の支払利息の額の割合など合理的に計算された利率)など合理的と認められる利率を定め利息を徴収している場合

③所得税が課税されるべき経済的利益の額がその法人の一事業年度あたり5,000円以下である場合

 

一方,貸し付けた法人側の税務上の取扱いですが,原則として,代表者に対する所得税の取扱いに準ずることになります。

すなわち,代表者に対し所得税課税される場合には法人側は受取利息と役員報酬(又は役員賞与)を認識し,所得税課税されない場合には法人側も課税上の問題無しという取扱いになります。

法人側で役員報酬(又は役員賞与)を認識した場合には法人税の計算上損金とならない可能性が高く,その場合は個人に所得税が,法人に法人税が課税され,ダブルパンチとなります。

 

次に,代表者からの借入金ですが,こちらは貸付金とは異なり,無利息又は通常の金利よりも低金利で借り入れた場合であっても,実務的には課税上問題となることは少ないです。

 

借り入れた法人は,支払うべき利息とそれが免除された債務免除益が相殺され損益が発生しませんし,貸し付けた代表者は,利息を受け取っていませんので原則として所得税課税はありません(注1)。

 

このように,法人税及び所得税ではそれほど問題とならない代表者からの無利息融資ですが,相続の場面においては問題となる場合があります。

 

代表者が法人へ資金を貸し付けたまま相続が発生しますと,その貸し付けた金額のうち未回収部分は貸付金として相続税の課税対象となります。

 

法人がきちんと返済できる場合には貸付金として相続税の課税対象となることは何ら問題ありませんが,回収可能性が低いにもかかわらず相続税が課税されてしまうと,相続人は自己の預金から納税しなければならないという問題が生じます。

 

よって,普段はあまり課税上の問題を生じさせない代表者からの借入金であっても,特に多額にある場合は何もしないまま放置しておきますと思わぬ課税を招くことがありますので,早めに対処しておく必要があります。

 

会社を経営していますと色々なことが生じ,同族会社とその代表者間で金銭の貸し借りをせざるを得ない場面というのは必然的に生じてしまいますが,少しずつでも良いので計画的に返済し,可能な限り互いの債権債務を解消しておくことが賢明と思われます。

 

(注1) 平和事件(最高裁H16.7.20第三小法廷判決):代表者がその経営する有限会社に3,000億円超の無利息融資を実施し,利息相当額の雑所得を代表者に認定し所得税課税された事件。よって,代表者の無利息融資が全く問題ないわけではなく,場合によっては所得税課税されます。

 

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