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配偶者居住権について
昨年7月に民法が改正され,相続発生後の配偶者の居住権を保護するための方策として「配偶者居住権」という新たな権利が創設されました(改正民法1028条・2020年4月1日施行)。
これまでは,例えば次のようなケースでは,相続発生後の配偶者の生活が不安定になり,残された配偶者の生活保障の安定性が求められていました。
被相続人:夫
相 続 人:妻と子
遺 産:自宅6,000万円,預貯金4,000万円
それぞれの法定相続分1/2で遺産分割しますと,配偶者は自宅の5/6しか相続できません。
仮に配偶者が自宅全部を相続した場合であっても,現金もいくらか相続できなければ相続後の生活に支障を来します。
そこで,配偶者居住権という権利を創設し,相続発生後の配偶者の居住権を保護することとしました。
配偶者居住権の具体的な内容は次のとおりです。
被相続人の配偶者は,被相続人が所有していた建物に相続開始の時に居住していた場合において,次のいずれかに該当するときは,その居住していた建物の全部について無償で使用及び収益をする権利を取得する。
・遺産分割によって配偶者居住権を取得するものとされたとき。
・配偶者居住権を遺贈により取得したとき。
このように,配偶者居住権は遺産分割や遺贈の選択肢の一つとして新たに創設された権利です。
あくまでも遺産分割や遺贈を通じて取得する権利ですので,相続発生と同時に自動的に取得できる権利ではありません。
遺言が無く,他の相続人との遺産分割協議が整わない段階では権利を取得することはできません。
先の例で,仮に配偶者居住権の評価額が2,000万円であった場合には,次のように相続することで配偶者の相続後の生活を安定させることができます。
配偶者が相続する財産:配偶者居住権2,000万円
預貯金 3,000万円
子が相続する財産:負担付所有権4,000万円
預貯金 1,000万円
配偶者居住権の存続期間は配偶者の終身の間です。
ただし,遺産分割協議若しくは遺言に別段の定めがあるとき,又は家庭裁判所が遺産分割の審判において別段の定めをしたときは,その定めるところによります。
配偶者が配偶者居住権を取得する場合,その居住建物自体は別の人が相続等することが前提となりますが,その居住建物の所有者は,配偶者に対し,配偶者居住権の設定の登記を備えさせる義務を負います。
逆に言いますと,配偶者は配偶者居住権の登記を求める権利を有することになります。
また,配偶者居住権は譲渡することはできません。
配偶者居住権は新しく創設された権利であるため,税務上は様々な取扱いが現時点では不明確です。
例えば,配偶者が亡くなって配偶者居住権が消滅した場合,その居住建物の所有者に経済的利益が生じたとして所得税や相続税等の課税があるのかどうか,或いは,配偶者居住権が設定された居住建物を売却することとなった場合において,配偶者居住権は譲渡することはできないため,配偶者は売却と同時に配偶者居住権を放棄することになると思われますが,これにより居住建物の所有者や敷地所有者に対し,配偶者居住権及び敷地利用権相当額の経済的利益が供与されたとして贈与税等の課税があるのかどうか,といった問題があります。
今後,課税当局がこれらの問題に対してどのような見解を示すのか注目されます。
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