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給与か外注費か
不動産仲介会社の経理でよく見かけるのですが,営業社員の人件費を給与ではなく外注費で支払っているケースがあります。
法人は給与を支払う場合は社会保険に加入しなければならないのでそれを避けるためと,外注費だと消費税の計算上控除できるので納税額が少なくなること(給与の場合は控除できない),の2つが主な理由ですが,よくよく話を伺ってみると完全に給与にすべき内容であることが多いです。
そこで,給与と外注費の判断基準と,給与にすべき費用を外注費としている場合の税務リスクを以下にご説明します。
<給与と外注費の判断基準>
最高裁昭和56年4月24日第二小法廷判決(民集35巻3号672頁)によれば,給与とは,雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付をいいます。
これに対し外注費とは,(受け取る側から見て)自己の計算と危険において独立して営まれ,営利性,有償性を有し,かつ反覆継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる給付をいいます。
給与支給者との関係において何らかの空間的,時間的な拘束を受け,継続的ないし断続的に労務又は役務の提供があり,その対価として支給されるものである場合は給与に該当する,というのが最高裁の判断です。
また,消費税基本通達1-1-1では,個人事業者と給与所得者の区分として,次の4つの要件を総合勘案して判定する,としています。
①その契約に係る役務の提供の内容が他人の代替を容れるかどうか。
②役務の提供に当たり事業者の指揮監督を受けるかどうか。
③まだ引渡しを了しない完成品が不可抗力のため滅失した場合等においても,当該個人が権利として既に提供した役務に係る報酬の請求をなすことができるかどうか。
④役務の提供に係る材料又は用具等を供与されているかどうか。
以下,補足します。
①他人が代行して業務をすることができるのであれば外注費,できないのであれば給与
②指揮監督を受ける場合は給与,受けない場合は外注費
③成果物を納品しなくても報酬を請求できる場合は給与,請求できない場合は外注費
④経費を自己負担していれば外注費,自己負担していなければ給与
一般的な会社では,A社員に頼んだ業務を第三者(下請け等)が代替することはありませんし,上司の指揮監督下で業務を行いますし,頼んだ業務が完成しなくても報酬は支払われますし,経費は会社が負担します。
よって,社員一人ひとりと請負契約書などを作成して形式的に外注費のような体裁を整えても,上記の判断基準に照らして実質的に給与であると判断されれば,その会計処理は否認されますので注意が必要です。
外注費とした会計処理が否認され,給与であると認定された場合,まずは消費税の納税額が増加します。消費税の計算上仕入税額控除していた外注費が否認され控除できなくなるためです。
次に,外注費として会計処理をした際に所得税を源泉徴収していなかった場合には,給与からは所得税を源泉徴収しなければならないので,過去に遡って所得税を源泉徴収する必要があります。報酬を受け取った社員が過去に確定申告しているから納税関係は完結しているはずだ,という理屈は通用しません。
源泉徴収は法人の義務だからです。
そして,消費税や源泉所得税の追徴税額に加え,過少申告加算税や不納付加算税,延滞税も課税されます。
不動産業界では完全歩合制だからという理由で安易に人件費を外注費として会計処理する慣行があるようですが,完全歩合制であっても実質的に判断して給与であるケースは多いので,外注費としての会計処理には注意が必要です。