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一括転貸方式における留意点
不動産賃貸業において法人を活用する場合には,同族会社に管理を委託する管理委託方式,同族会社に一括して賃貸し同族会社が第三者に転貸する一括転貸方式,同族会社が直接不動産を所有する自己所有方式がありますが,今回は,一括転貸方式における留意点を整理してみました。
一括転貸方式は,個人が所有している不動産を,その個人又は親族が主宰する同族会社に一括して賃貸するとともに,その同族会社に不動産管理を委託し,同族会社が第三者である入居者へ転貸する方式で,サブリース方式とも呼ばれます。
一般的に,個人から同族会社へ賃貸する場合の賃貸料は空室の有無にかかわらず一定額であり,それ故空室があった場合のリスクは同族会社が負うことになります。
個人で不動産賃貸業を行う場合の家賃収入は全て個人に帰属しますが,一括転貸方式の場合には同族会社を経由して家賃収入が個人へ流れることになりますので,個人と同族会社,同族会社と入居者の家賃に差をつけることにより,同族会社に資金を滞留させることが可能となり,これが個人から法人への所得分散を実現します。これが最大のメリットです。
しかし,行き過ぎた所得分散は当然課税当局とのトラブルの原因になりますので,適正な比率を設定する必要があります。
第三者から収受する家賃収入を100とした場合の同族会社の取り分は,一般的には10%~15%程度,最大でも20%といわれることが多いですが,同族会社が実際に行っている業務内容にもよりますので,管理業務の実態に即して決定します。
そのために,まず,個人と同族会社間において,賃貸借契約兼管理委託契約を締結し,経営上生じる様々な費用を個人と法人のどちらが負担するのかを細かく定めておく必要があります。
具体的には,建物の所有者は個人ですので,建物本体,建物付属設備(受水槽,浄化槽,エレベーター等),構築物(門や塀等)の修繕や保守管理に関する費用は個人負担となり,通常の不動産賃貸における費用,例えば入居時・退去時のクロス,壁,畳,フローリング等の改修費用,室内クリーニング費用,共用部分の水道光熱費や電球交換費用等は同族会社負担となります。
次に,不動産管理会社という位置付けとなる同族会社の留意点ですが,管理の実態を書面で残し第三者に客観的に示すことができるようにしておくことが重要です。
具体的なポイントとしては,①入居者との賃貸借契約においては同族会社が賃貸人となっていること,②入居者からの家賃収入は同族会社名義の預金口座に入金されていること,③修繕や清掃等の通常の不動産賃貸に関する請求書や領収書は同族会社名となっていること,④消防や防災設備の点検業務は同族会社として発注していること,などが挙げられます。
また,日々の不動産賃貸に関する出来事(各業者との連絡や打合せ,入居者からのクレーム,入居希望者の内覧対応,賃貸借契約の締結等)を日頃から日誌としてノート等に書き止めておくことも,同族会社としての管理業務の実態を証明する資料として非常に有効です。
同族会社は上場会社のように所有と経営が分離している法人とは異なり,少数株主により恣意的に税負担を減少させる行為や計算を行うことが可能であるため,とかく課税当局もそのような先入観で税務調査に当たる節があります。所得税法157条の「同族会社の行為計算の否認」規定は伝家の宝刀と言われ,同族会社の行為を無視して課税処分することが可能であるため,この規定に抵触しないよう十分に留意する必要があります。
参考:月刊税理2017年12月号