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同族会社に土地を低額譲渡した場合の課税関係
同族会社の社長が,様々な理由から自己が所有している土地を当該同族会社に譲渡することは間々あります。
この時,土地を譲渡することにより生ずる譲渡所得税を少なくしようと,意図的に時価よりも安い金額設定で譲渡することがありますが,その場合の課税関係はどうなるでしょうか。以下,概略をご説明します。
<事例>
・譲渡した土地の譲渡時における時価は約1億円
・実際にやり取りした譲渡対価は4千万円
・A社の株主は甲社長と乙(甲の親族)の2人で株式の所有割合はそれぞれ1/2
<土地を譲渡した甲社長の課税関係>
個人が,法人に対して,著しく低い価額の対価(譲渡時における時価の1/2未満)で,譲渡所得の起因となる資産を移転した場合には,その譲渡所得の金額の計算については,その譲渡の時における時価で譲渡したものとみなすこととされています(所法59①二,所令169)。
したがって,甲社長は時価1億円の土地をその1/2未満である4千万円で法人に譲渡しているため,譲渡対価は4千万円であっても,1億円で譲渡したものとみなして譲渡所得の計算を行うことになります。
<土地を購入したA社の課税関係>
法人が,時価よりも低い価額で資産を譲り受けた場合には,譲受価額と時価との差額に相当する金額は寄付を受けたものとして収益として課税されます(法法22②)。
したがって,A社は時価1億円の土地を4千万円で譲り受けているので,差額の6千万円は収益として課税対象となります。仕訳は以下の通りです。
(借方) | 土 地 | 1億円 | (貸方) | 現金預金 | 4千万円 |
受贈益 | 6千万円 |
<株主乙の課税関係>
上記土地売買の直接の当事者でない株主乙に対しても課税関係は生じます。
すなわち,A社は,時価よりも著しく低い価額で土地を取得しているので,これによりA社の株価は上昇します。A社の株価が上昇しますと,乙自身は何もしていなくとも,乙が所有しているA社の株価が上昇したので,乙は利益を得たとみることができます(株を転売して利益を得られます)。
相続税法は,対価を支払わないで利益を受けた場合においては,当該利益を受けた時において,当該利益を受けた者が,当該利益の価額に相当する金額を,当該利益を受けさせた者から贈与により取得したものとみなす,と規定しています(相法9)。
つまり,乙は間接的に甲から贈与により利益を取得したとみなされて贈与税が課税されます。
このように,譲渡所得税が少なくなるどころか,かえって売主買主双方の税負担が大きくなり,しかも直接の当事者でない他の株主にまで課税関係が生ずる結果になってしまいました。
ちなみに,この著しく低い価額の対価で譲渡した場合の「みなし譲渡課税」は,個人が法人に対して著しく低い価額の対価で譲渡した場合に適用される規定であり,個人が個人に対して著しく低い価額の対価で譲渡した場合には適用されません。
但し,譲渡時の時価と実際の対価との差額に相当する金額につき,贈与税課税があることは先の法人の場合と同様です。
税法の世界では,所得税も法人税も相続税も贈与税も,基本的には全て「時価」を基準に考えますので,それよりも高い金額で取引しても安い金額で取引しても,何らかの課税関係が生ずると考えておけば,そう間違いはないと思います。