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タワーマンションによる相続税対策の問題点
ここ数年,注目されているタワーマンションによる相続税対策を再び解説します(初回はこちら)。
不動産の実際の取引価額と相続税評価額の開差を利用した相続税対策は昔から頻繁に用いられる方法であり,タワーマンションの取得はその典型例です。
例えば,タワーマンション最上階の1室を3億円で取得した場合において,その相続税評価額が6,000万円程度とすると,その差額分だけ相続税の課税対象(課税価格)が減少します。
なぜこうなるかと言いますと,相続税を計算する場合における不動産評価の方法に起因します。
すなわち,マンションは土地の敷地持分と建物持分で構成されていますが,高層マンションほど1室当たりの敷地持分が少ないため,結果として評価額が低くなり,かつ,建物の固定資産税評価額が当該マンションの建築価額や市場価格よりも相対的に低く設定されているためです。
よって,タワーマンションの場合,1階と最上階の床面積が同じであれば,相続税評価額は理論上同じになります。実際の取引価額は1階と最上階では倍以上の差があることもありますが,現行税制ではこの差は無視されます。
故に,タワーマンションによる相続税対策が,巷,推奨されているわけです。
しかしながら,タワーマンションによる相続税対策については構造的問題点がありますので注意が必要です。
平成23年7月1日裁決(非公開裁決・TAINS F0-3-326)は,相続開始1ヶ月前に売買契約を締結し,2週前に所有権移転登記をしたマンションの価額について,相続税評価額(約5,800万円)ではなく,取得価額(約2億9,300万円)で評価するのが相当であるとして,納税者の相続税の申告を否認しました。この裁決の場合,課税当局は当該マンションの取得自体を否認し,当該取得代金(現金)が相続財産であると認定しています。
また,新聞報道(日経新聞H27.4.7朝刊)では,相続開始4ヶ月前に取得した賃貸マンションについて,相続税評価額(1億2,000万円)ではなく,取得価額(3億7,000万円)で評価し,課税処分が行われたようです。
いずれの事例も相続開始直前にタワーマンションを取得したことを否認されたものですが,もっとも,このような相続開始直前に不動産を取得することによる相続税対策の問題は,タワーマンションに限ったことではなく一般不動産にも言えることではありますが,タワーマンションの場合は相続人が相続開始直後に売却しなければならない事情が存するため,一般不動産よりもリスクを負っていると言えます。
なぜタワーマンションによる相続税対策は相続開始直後に売却しなければならないかと言いますと,近年,タワーマンションは乱立状態にあり,今後も多くのタワーマンションが市場に供給されると予想されますが,そうすると既存のタワーマンションの資産価値は新築時をピークに相対的に下がることはあっても上がることはほぼありません。
故に,タワーマンションによる相続税対策の場合,取得時よりも資産価値の下落が激しくない期間内に売却しておく必要があります。そうしないと,相続税の節税額よりもタワーマンションの値下がり損のほうが多額になってしまう恐れがあり,それでは何のための節税策であるかわからないからです。
しかしながら,この売却行為が相続税対策を否認する根拠になってしまうところが,タワーマンションによる相続税対策の構造的問題点だと言えるのです。
よって,相続税対策として不動産を取得する場合,タワーマンションのように資産価値の下落が激しいことが予想される物件よりも,資産価値の下落が激しくなく,場合によっては上昇するような物件(中央線沿線・城南地区等のRC賃貸物件等)を選定することが重要です。
尚,タワーマンションも自宅として購入する場合には問題ありません。相続開始直後の売却は避けたいところですが,仮に相続開始直後に売却した場合であっても自宅の場合は否認される可能性は低くなります。
参考:品川芳宣「最近の相続税節税策(スキーム)の真贋を問う!」季刊野村資産承継2015創刊号P76