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財産債務調書制度の概要

2015-08-31(月) 10:57:15

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【財産債務調書制度の概要】

平成27年度税制改正において,従来の「財産債務明細書」制度が,「財産債務調書」制度に改組されました。

平成28年1月1日以後に提出すべき調書から適用されます。

 

改正前において明細書を提出しなければならない者は,確定申告書を提出しなければならない者で,その年分の所得金額が2,000万円を超える者でしたが,改正後は以下のようになりました。

すなわち,財産債務調書を提出しなければならない者は,その年分の所得金額が2,000万円を超え,且つ,その年の12月31日において保有財産3億円以上か国外財産1億円以上を有する者です。

簡素に表現しますと,「所得金額2,000万円超」and「保有財産3億円以上 or 国外財産1億円以上」となります。

ちなみに,この「財産債務調書」制度とは別に,「国外財産調書」制度というものがあり,こちらは所得金額に関係なく,その年の12月31日において国外財産5,000万円以上有する者が提出しなければならないことになっています。

 

このような改正がなされた背景には,平成25年における相続税改正により,相続税の基礎控除が4割も引き下げられ大幅な増税が予定されることとなり,裕福層が国外に財産を移転し,相続税や贈与税の課税を逃れる事例が後を絶たないためです。

「財産債務調書」の提出義務者は,生前において,事実上の「相続財産の概算申告」をすることと同義であると考えられますので,その後の相続税の申告に当たっては,被相続人が生前に提出した財産債務調書との整合性を適正に検証する必要があります。

 

<加算税等の特例>

過少に申告した或いは無申告であったことによるペナルティーである過少申告加算税又は無申告加算税の税率は,過少申告加算税は10%(一定の場合15%),無申告加算税は15%(一定の場合は20%)ですが,「財産債務調書」制度及び「国外財産調書」制度については,適正な調書の提出を促すため,加算税等の特例が設けられています。

すなわち,所得税又は相続税の申告漏れがあった場合において,その申告漏れが,提出期限内に提出された調書に記載のある財産債務に起因している場合には,加算税は5%軽減され,逆に,調書の提出がないとき又は提出期限内に提出された調書に記載のない財産債務に起因している場合には,加算税は5%加重されます。

 

<不動産の評価>

財産債務調書に記載する財産のうち,多くを占めるのは不動産と金融資産であると推測されますが,いずれも調書に記載する価額は原則的には「時価」とされています。しかし,不動産についてはこの時価の把握が難しいため,見積価額によることも認められています。

土地の時価として認められる具体例としては,路線価を基準にした相続税評価額,最近に有償で取得した場合にはその取得価額,その年分の固定資産税評価額又は固定資産税課税標準額,などが考えられます。

建物についても土地と同様に,最近に有償で取得した場合にはその取得価額,その年分の固定資産税評価額又は固定資産税課税標準額,などが考えられます。

 

<金融資産の評価>

調書に記載すべき金融資産の区分としては,現金,預貯金,有価証券,匿名組合契約出資の持分,未決済信用取引等に係る権利,未決済デリバティブ取引に係る権利,貸付金,未収入金が示されています。

これらのうち,現金や預貯金,貸付金や未収入金などは残高がはっきりしていることが多いと思いますが,その他については時価の把握が簡単でないものもあり,特に有価証券のうち上場していない同族会社の株式などはその典型でしょう。

このいわゆる非上場株式の時価は,実務的には相続税を計算する際に使用する「財産評価基本通達」を基に算定することになると思いますが,この評価を適正に行う場合には,過去3期分の決算書の詳細な内訳と法人税申告書が必要となり,また,会社の規模に応じて国税庁が定める類似業種株価との比較が必要となるなど,ある程度の時間と労力を要します。

提出期限間際になって慌てて専門家に依頼しても,対応が難しい場合がありますのでご注意下さい。

 

法人が契約している顧問税理士であっても,必ずしも個人資産を把握しているわけではないと思われますので,調書提出義務があるか無いか不安な場合には,一度,顧問税理士に相談することをお勧め致します。